「新生児にとって哺乳行動とは何か 4」で、最初に出た胎便をお母さんに見せていることを書きました。
10ヶ月ほどの長い期間、少しずつ腸の中に胎便を作ってきたこと。
羊水の中ではできるだけ胎便は出さずに、世の中に出て活発に腸蠕動が始まってから出ること。
どれをとっても胎便を出すということは「本当に奇跡の積み重ねの結果」だと思うことを書きました。
出生したばかりの新生児がいると、この人生初めてのうんちをするところを見逃すまいと、ジッと見てしまいます。
「ウーン、ウーン」と真っ赤な顔をしていかにもいきんでいますとアピールして胎便を出す赤ちゃんもいれば、うっすらと目を開けるぐらいでさりげなくうんちをしている赤ちゃんもいます。
でも人生初めてのうんちをしたあとは、どこか「ホッ」とした表情のような気がしますし、満面の笑みを浮かべる赤ちゃんもいます。
「これで人生大丈夫!もう自分でうんちができるね」と話しかけます。
いえ、決して大げさなことでもなく、心の底からそう思うのです。
<ヒルシュスプルング病>
生まれてから何時間ぐらいの間に、初めての胎便を出すのでしょうか?
「周産期医学必修知識第7版」(東京医学社、2012年)の「胎児・新生児の消化器の発達ー新生児の便」では以下のように書いてあります。
正常新生児において初回排便は、90%以上が24時間以内に認められる。
胎便排出がない時は、排便異常の原因検索を行う必要がある。
この原因のひとつにヒルシュスプルング病があります。
「周産期必修知識第7版」では、以下のように説明されています。
神経細胞は集団となって神経節という形態で輪状筋と縦走筋の間(筋間神経叢)と粘膜下層(粘膜下神経叢)に存在し神経ネットワークを形成している。
腸管神経は胎生早期の神経堤由来の細胞が消化管に遊走したもので、途中脊髄後根、交感神経節、腹腔神経節にも細胞が分布する。
胎生5〜12週の間に食道から順次下降性に直腸まで分布してゆく。本症はこの下降性分布が途中で停止したために、その部から遠位側の腸管が神経節細胞の存在しない無神経腸管となったものである。
妊娠したかなと思ってから母子手帳をもらって妊婦健診が始まる頃、そんな時期にこうして気が遠くなるような体のしくみが作られているわけです。
腸管に神経がないということはどういうことなのでしょうか?
本症によって腸管神経細胞がなければ、腸管内容が輸送されないことがあきらかになった。無神経細胞腸管では食物が輸送された内容が停滞して拡張する。
肛門周辺の神経がないことで、胎内で順調に作られたはずの胎便が生後しばらくしても排泄されない。
それがヒルシュスプルング病です。
「周産期医学必修知識第7版」によれば、1886年にデンマークのヒルシュスプルング小児科教授が詳細な報告をしたことにちなんだ名前であるけれど、病態などが明らかになるまでにはさらに半世紀を要したようです。
そう、出生直後の新生児を観察する重要性のひとつに、この排便異常の有無があるのです。
どれくらいの割合でおこるかと言えば、「出生5000人に1人の割合」とのことです。現在約100万人の出生数ですから、年間約200人はこの疾患の赤ちゃんが生まれていることになります。
「新生児期に診断されるものが約半数、1歳までに9割が診断される」とあります。
つまり軽度のものであれば、出生直後に私たちも気づかない可能性があります。
それでも自力でウンチを出せたことに、私もとてもホッとするのです。
そして、この巧妙な「排泄の自律性」をお母さんたちに伝えられたらと思って、胎便の説明をしています。
最初は「すごいですね!」と感動してくれますが、きっとそのうちに「あーまたうんち。さっき替えたばかりなのに(苛々)」という日々になることでしょう。
そんな時に、ふと「うんちを自分で出せるのは奇跡の積み重ねなのだ」と思い出してもらえたらと思い、この病気の話もしています。
「新生児のあれこれ」まとめはこちら。