産後のトラブルを考える 9 <出産と便失禁>

胎内で準備されてきたさまざまな「巧妙な排泄の自律性」を持って生まれたあと、少しずつ体と心の発達とともに「排泄の自立」を勝ち得ていきます。


幼児期に排泄が自立すると、あとは当たり前のようにトイレに行き、当たり前のように排泄をする人生が長くつづきます。


大きな怪我や重篤な病気が元で、この排泄の自律性と自立を失ったり損なうこともあります。
また加齢にともなうこともあります。


年代が若ければ若いほど、この失ったあるいは損なった機能の大きさに驚きと落胆もまた大きいものではないかと思います。


出産という喜びや希望にあふれた機会にそれが我が身に起こることを考えている方はいらっしゃらないことでしょう。
まして、便失禁に苦しむことになるなんて誰が考えるでしょうか?



私自身、尿漏れについては臨床でも比較的多く遭遇してきましたし、回復した方ばかりでしたが、産後の便失禁で苦しんでいる方に直接接する機会があったのはごく最近のことでした。


実際にどれくらい方が出産が関係した便失禁に悩んでいるのか。
失禁の程度や、生活に与える影響はどのようなものなのか。
具体的にどのような分娩経過で、どのような肛門周囲の筋損傷があるのか。
肛門括約筋の明らかな断裂や損傷によるものと、周囲の組織の損傷によるものはどれくらいの割合なのか。
年齢別の発症率やその後の経過にはどのような差があるのか。



調べてみたのですが、助産師のレベルで得られる資料にはほとんどこの出産と便失禁に関する統計や記述がありませんでした。


産科医や外科医の学会では報告などもあるのかもしれません。
でもそれが臨床の私たちのケアにフィードバックされるほど、まだ問題とみなされていないのかもしれません。


特に知りたいのは、やはりこの十数年で急激に変化した出産年齢との関係です。


高年妊娠の分類と特徴で紹介した文を再掲します。

この年齢層の産婦は分娩によって骨盤底支持組織や会陰の損傷、膀胱・尿道直腸・肛門の機能低下をきたすリスクがあり、一部の人には恒久的な機能低下が残る

また出産年齢と排尿トラブルの関係はあるのかでは、産褥期の腹圧性尿失禁保有率が、40歳前後の経膣分娩では38.5%であるのに対して、帝王切開では10.8%であるという資料を紹介しました。


40歳前後の分娩様式(経膣分娩か帝王切開か)が尿失禁に影響を与えるように、直腸・肛門の機能低下にも影響を与えるのでしょうか。
もちろんこのあたりは、まだまだ医学的な議論をまたなければいけないのですが。


産後、排便のトラブルに悩む方を見逃さずに対応していけるようにするとともに、産後のQOLを考えた分娩介助方法について見直していく必要があるのかもしれないと思うようになりました。



ということで、しばらくは産後の便失禁についての記事が続きます。





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