乳児用ミルクのあれこれ 1 <「衛生的な」調乳とは>

なぜ私が液状乳児用ミルクの必要性を強く感じるかというと、「衛生的な調乳」のためです。


医療機関ではなく家庭においての衛生的な調乳とは、皆さん、どのレベルを思い浮かべるでしょうか?
おそらく「消毒をした」哺乳ビンを使うということだけでも、かなり特別なそれまでの生活では無縁ともいえる衛生的技術ではないかと思います。


それ以外にも、「適切なお湯の温度を守る」「飲み残しは捨てる」など、赤ちゃんにミルクを作るということはなんと大変なことだろうと、最初は感じられるのではないかと思います。


なぜ衛生的な調乳が必要であるか、それはまだ免疫や抵抗力の不十分な新生児や乳児を感染性胃腸炎、特に細菌性胃腸炎(いわゆる食中毒)を予防するためということは、漠然としながらも皆さん理解されているのではないでしょうか。


衛生的な調乳に必要なものや条件については、「液状乳児用ミルクの普及を望んでいます」の<日本の産科施設での調乳>で書いたように、安全な水、安定した電力・ガス、信頼できるさまざまな製品、どれ一つが欠けても調乳を介した感染のリスクが高まります。


今回は、その「信頼できる製品」について少し考えてみようと思います。


<乳児用調整粉乳のリスク>


乳児用調製粉乳(以下、粉ミルク)の感染症のリスクといえば、サカザキ菌による汚染です。


「液状乳児用ミルクの普及を望んでいます」で紹介した、2007年の「乳児用調整粉乳の安全な調乳・保存および取扱いに関するガイドライン(仮訳)」では以下のように書かれています。
厚労省から出された仮訳です。上記名で検索してみてください)

PIF(乳児用調整粉乳)は、無菌の製品ではなく重篤な疾患の原因となりうる有害細菌に汚染される可能性がある。正しい調乳と取扱いによって疾病のリスクは減少する。

製造過程で粉ミルクから完全に細菌を除去することは不可能で、その中でもサカザキ菌による髄膜炎腸炎が問題になったのが2004年頃でした。


2004年2月にWHO/FAO専門家会合から出された文書の日本語訳が、厚生労働省のサイトに「育児用調整粉乳中のEnterobactor sakazakiに関するQ&A(仮訳)」としてあります。


こうした経緯から2009年に厚労省「乳児用調製粉乳の安全な調乳、保存及び取扱いに関するガイドラインについて」では、「乳児用調製粉乳を使用する父母の方へ」として以下のようになりました。

○乳児用調製粉乳の調乳に当たっては、使用する温度は70℃以上を保つこと
 (注)高温の湯を取り扱うのでやけどに注意すること
○調乳後2時間以内にしようしなかったミルクは廃棄すること

それ以前は、高温の湯は粉ミルクの蛋白質などの成分を壊すという理由で65度前後のお湯の使用が推奨されていましたが、分娩施設の調乳やお母さん達への説明も大きく変わったのが2009年でした。


<サカザキ菌のリスクと対応>


上記の「育児用調整粉乳中のEnterobactor sakazakiに関するQ&A」では、「本菌の自然界での生息場所はよくわかっていません」「感染した乳児の20〜50%が死亡」などかなり怖いことが書かれています。


この不安に対し、横浜市衛生研究所の「粉ミルク(乳児用調整粉乳)を70℃以上のお湯で溶かすワケを知っていますか?」にわかりやすい説明があります。

サカザキ菌はサルモネラ菌に比べて、粉ミルクの製造環境により多く存在することがわかっていますが、厚生労働科学研究によると、日本の製品に含まれる量はごく微量で、333g中に1個と報告されています。

サカザキ菌もサルモネラ菌も、乾燥した粉ミルクの中で増えることはありませんが、生存は可能です。

粉ミルクの大缶だと1缶850g前後ですから、サカザキ菌が製造過程で混入したとしても2〜3個ですし、粉ミルク中で増殖するわけではないのです。


ですから安全な方法で調乳して決められた時間内に消費すれば、日常的に粉ミルクを使う分には怖れなくても大丈夫であるということです。


さらに、こちらの記事で紹介した、2011年の東日本大震災の際に日本小児科学会から出された「避難している妊産婦、乳幼児の支援のポイント」では、以下のように書かれています。

お湯が用意できないときには、衛生的な水で粉ミルクを溶かす。

平時であれば、製造過程で混入する可能性のあるサカザキ菌も70℃以上のお湯を使うことで死滅させられます。
非常時のようにお湯が手に入らない場合には、衛生的な水でも作ってすぐに飲ませることで、感染を起こすような菌の繁殖になるほどのことではないといえるでしょう。

<信頼できる製品とはどういうことか>


つい最近も8月に、ニュージーランド製の粉ミルクにボツリヌス菌の混入の可能性があるとして、中国やベトナムから製品が回収されたニュースがありました。


粉ミルクの製造過程では、「無菌的」な製造は技術的に無理という状況では菌の混入はしかたがないことだといえます。
専門的なことはよくわかりませんが、このボツリヌス菌の混入を発見できるのも食品安全管理体制が整っていることを意味しているようです。
2013年8月7日の「焦点:「クリーン」なNZに汚点、乳製品問題で揺らぐ食の安全」という記事の中では、以下のように書かれています。

ニュージーランドは世界で最も厳しい食品安全管理体制をとっている国のひとつ。フォンテラ製品のボツリヌス菌検出も高性能の検出システムによって明らかになった。

このような検出システムによって乳児の感染を未然に防ぐために製品回収を行ったということは、「汚点」ととらえるものなのでしょうか?


むしろ「信頼できる製品」というのは、こうした企業側の高い社会倫理に基づいた動きに対し、その社会からの相互的な信頼があるからこそ生かされるように思います。


そうした信頼できる製品も、製造過程だけでなく開封後もさまざまな菌の混入のリスクがあります。
そのあたりを次回、考えてみようと思います。




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