乳児用ミルクのあれこれ 2 <衛生的に調乳するとは>

粉ミルクの大缶は、850g前後の内容量があります。


一度開封すると、何回ぐらいこの缶の中に人の手を介して雑菌が入る可能性があるでしょうか?


通常、缶の中には1杯2.6g程度の粉ミルクを計量するスプーンが入っています。
つまり1缶を使い終えるまでに、315回前後、手とスプーンが入ることになります。


たとえサカザキ菌が粉ミルク333g中に1個程度と、ほとんど雑菌が混入しないように作られても、一度開封すると常に雑菌に汚染される機会があるわけです。


そのために清潔にした手で、調乳する必要性が出てきます。
横浜市衛生研究所の「粉ミルクを70℃以上のお湯で溶かすワケを知っていますか?内の「詳細な調乳方法はこちら」(PDF)には、FAO/WHOの「乳児用調整粉乳の安全な調乳、保存及び取扱いに関するガイドラインの概要」をわかりやすく説明してあります。


その中に、以下のように書かれています。

Step 2

石鹸と水で手を洗い、清潔なふきん又は使い捨てのふきんで水をふき取ります。

面倒な哺乳ビンの消毒はしっかりしていても、簡単そうで、けっこう実行されていないのがこのStep2かもしれません。


<きちんと手を洗っていますか?>


家庭ではどれくらいの人がきちんとこのStep2の手洗い後の調乳をしているのだろうと疑問に思うようになったのは、実は恥ずかしながら、勤務先のクリニックのスタッフの調乳を見てからでした。


医療機関の院内感染予防対策上、とても大切なのがこちらの記事に書いたように「一処置一手洗い」です。


たとえば産科病棟であれば、ひとりの赤ちゃんの検温をしたり抱っこしたら、別の赤ちゃんに触る前には必ず手を洗うかアルコールで手指消毒をするのが基本です。
とにかく、一日中ひっきりなしに手洗いをし、手指消毒をしてます。


それぐらい、感染予防対策としての手洗いが一般の人以上に意識されている職場のはずなのですが・・・。
私は見てしまったのですね。


置くとぐずる赤ちゃんを片手で抱っこしてあやしながら、調乳しているスタッフの姿を。
見事にStep2を飛ばしています。
それも一人だけでなく、何人ものスタッフが。


たぶん自分の子育て中にはそうせざるを得なかったこともあるでしょうから、身についてしまっているのかもしれません
職場には、上記のFAO/WHOの安全な調乳に関するガイドラインも大きく貼ってあるのですが、目に入らないようです。


産科施設でさえ、まだまだ調乳と感染症に関しての意識が低いスタッフが多いのに、一般家庭であればよほど神経質な人ぐらいしか上記の安全ガイドラインを徹底できないことでしょう。


<家庭での「安全な」のレベルとは>



調乳する時にスプーンに触れる手、あるいは缶の中に入る手は清潔に洗ってよく乾燥させる、このステップを守ることで雑菌の混入や増殖の機会を減らすことができるのだと思います。


家庭ではどうでしょうか?
日本国内の上水道は、今のところ清潔という点では十分に信頼できると思います。


ところがそのきれいな水と石鹸でよく手を洗っても、手を拭く「清潔なふきん」はどうでしょうか?
医療機関では院内感染予防のために、手洗い場にはディスポのペーパータオルが基本になりました。
おそらく家庭では、掛けっぱなしのタオルで拭いているのではないでしょうか?


たとえ手を拭くタオル類が清潔だとしても、よく乾燥させるでしょうか?
ペーパータオルも1枚ではなかなか水気をふき取るのが難しいものです。


スプーンは缶の外に出して保管したり、洗浄しているでしょうか?
開封したときからそのまま入れっぱなし、ということも多いのではないでしょうか。


濡れた手でスプーンをさわり、そのスプーンをさらにそのまま缶の中に入れっぱなしにしていたら・・・。


通常は乾燥した粉ミルクの中で増殖することはない菌でも、水分が与えられば、缶の中は栄養のある培地になる可能性がでてきまいます。


家庭でここまで粉ミルクと雑菌について考えることはないでしょうし、実際に私自身、日本国内で家庭での調乳と感染症の話も耳にしたことはありません。


おそらく清潔な適温のお湯での調乳、調乳後はすぐに飲ませること、飲み残しは捨てることがある程度徹底されているから、たとえ清潔でない手で調乳しても家庭内でもとりあえず問題にはなっていないのだろうと思えるのです。



<災害時の調乳によるリスク>


十分に手やスプーンを清潔にできない災害時というのは、上記の安全な調乳のためのガイドラインを守れない状況です。


手を洗えない状況で、どのように調乳をしていたのか。
その状況で、缶の中でどれだけ雑菌が混入するのか。
具体的にどのような危険性が増すのか。


まずはそのあたりを知りたいところです。


危険性があれば、未然にそれを防ぐ。
それは乳児用のミルクを取り扱う私たちの責任ともいえるでしょう。



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