乳児用ミルクのあれこれ 3 <液状ミルクのメリットー滅菌されている>

粉ミルクに比べてすでに調乳されている液状ミルクのメリットは、なんといっても「滅菌」されていること、その一言につきると思います。


たびたび引用している、2007年に出されたWHO/FAO「乳児用調整粉乳の安全な調乳、保存及び取扱いに関するガイドライン」の一部を再掲します。

PIF(乳児用調整粉乳)は、無菌の製品ではなく、重篤な疾病の原因となりうる有害な細菌に汚染される可能性がある。正しい調乳と取扱いによって疾病のリスクは減少する。

これは製造過程で雑菌を全く混入させないようにはできないという意味であって、製品に雑菌があることがただちに危険という意味ではありません。

可能な限りリスクの最も高い乳児には商業的に殺菌されたすぐに使える液状乳児用ミルクが推奨される。
滅菌した液状乳児用ミルクには病原菌が存在せず、感染のリスクもない。

この数行の中に、「無菌」「殺菌」「滅菌」という言葉が出てきて混乱しそうですが、要は液状乳児用ミルクそのもの自体は「病原菌が存在せず、感染のリスクもない」ものであることです。


そして粉ミルクと違って、「調乳」というプロセスでの汚染もなくすぐにそのものを乳児に飲ませることができます。


<粉ミルクに関連した疾病>


冒頭のガイドラインの仮訳が厚労省のホームページに掲載されているのですが直接リンクできないので、「乳児用調製粉乳の安全な調乳ー日本医師会」(2009年6月26日)に全文が掲載されていますのでリンクしておきます。


その中の「1.2 PIF(乳児用調製粉乳)に関連した疾病」(p.2)に「PIFは、調乳担当者、または調乳が行われた環境から外因的に汚染される可能性がある」として、ニュージーランドとフランスでのサカザキ菌の感染例が書かれています。

ひとつの病院では調乳及び哺乳ビンの取扱いや保存が奨励された方法で行われておらず、4つの病院では、調乳済みの粉ミルクを温度調整やトレーサビリティ機能のない家庭用冷蔵庫で、24時間を越えて保存していた。


このガイドラインの「第2部 医療環境」(p.8〜)を読むと、家庭での調乳よりもむしろ病院などの施設での大量調乳のほうがサカザキ菌などの感染リスクが高くなる印象を受けました。


<病院での大量な一括調乳>


以前勤務していた総合病院は、その都度ひとり分を調乳する施設と、栄養士さんが一日分を一括調乳するところとありました。


栄養士さんが調乳する方法では、滅菌した1ℓの瓶に調乳したあと、瓶内部が80度以上(だったと思います)になるように一度加温して殺菌したあと、急速に流水で冷やしてから冷蔵庫に保存していました。
24時間たったものは、たくさん残っていても全て廃棄していました。
あるいは24時間以内でも、瓶の蓋を落として汚してしまった、瓶の口を汚してしまったなどの場合には廃棄していました。


「2.1.4 PIFを使用した粉ミルクの調乳」(p.9〜)には以下のように書かれています。

(*調乳された)PIFは大型でふたのあいた容器に入っているほど汚染されやすいので、この方法はリスクを高めることになる。
また、大量の粉ミルクは冷めるのに時間がかかり、有害細菌が増殖する可能性がある。

常温においたカレーの内側が冷めにくいために、細菌が増殖して食中毒の原因になることは知られていることです。

粉ミルクは授乳するたびに調乳し、すぐに授乳するのが望ましい。
病院などの医療環境では、多くの乳児のために調乳を行う必要がある。理想的にはひとりずつ、別々のコップや哺乳ビンで調乳することが望ましい。

家庭であるいは昨日書いたように産科施設でも、清潔な調乳に多少ずさんさがあっても粉ミルクによる感染が問題にならないのは、すぐに作ってすぐに飲ませていることが幸いしているかもしれません。


片手で抱っこしながら調乳していたスタッフも、さすがに飲みの残しを保存したりはしませんでした。
どちらかというと看護職というのはせっかちなので、飲ませたらすぐに哺乳ビンを片付けないと気がすまないところがあります。
もったいないからと冷蔵庫で保存したり、その冷蔵庫も温度管理が不十分ならば、一気に細菌が増えて赤ちゃんを大変な目にあわせてしまうことでしょう。



すべての乳児用ミルクを液状ミルクに変える必要はないと思いますが、医療機関のように大量の調乳を必要な環境、あるいは安全で清潔な調乳をできない災害時などの環境には、この滅菌したミルクが真価を発揮するのではないかと思います。




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