乳児用ミルクのあれこれ 6 <搾乳の衛生的管理とは>

母乳を搾って清潔な容器に入れて冷蔵したり、専用のパックで冷凍保存をすることは産科施設でも日常的に行われてきました。


その搾乳(さくにゅう)あるいは搾母(さくぼ)の衛生状態はどうなのか、保存期間はどのように考えられているかという点についてご質問をいただいたので、今日は資料のご紹介です。
こちらのコメント欄でご経験やご質問をくださったりすさん、藤枝明里さん、ありがとうございます。


参考文献は、「周産期医学」2012年 Vol.42 増刊号「Q&A お母さんと赤ちゃんの栄養」の中の「母乳は冷蔵庫や冷凍庫でどれくらい保存できますか?」(p152〜)です。


<母乳の冷蔵による保存期間>


室温においた場合と、冷蔵した場合の保存期間に関しては以下のように書かれています。

 室温(25℃)の新鮮母乳では、健康な児であれば6時間まで使用できる。一方、NICU入院児では4時間までは使用可能である。

なお、すぐに児に飲ませる予定がない場合は直ちに冷蔵する。
冷蔵庫(4℃)で保存する新鮮母乳は8日未満であれば児に与えることができる
ただし細菌数は8日以降も減少するが、栄養的、免疫的な質は長期冷蔵で損なわれる可能性がある。このため実際の使用の際は従来どおり48時間未満を使用期限とすることが望ましい。

冷蔵庫で8日間も保存して大丈夫だということに、驚かれるのではないかと思います。


その「腐らない」理由が以下のように説明されています。

 母乳中(新鮮非冷蔵母乳)に存在する白血球の90%が貪食細胞である。この母乳中の貪食細胞は活性化されており、微生物を貪食する働きをもっている。25℃以下であれば搾乳後、室温で保存しても、4〜8時間までは細菌はごくわずかしか増加しないといわれている。

この細菌や微生物を増やさないようにする母乳自体の働きがあるので、「冷蔵」保存したものを新生児や乳児に飲ませることが可能なわけです。


文献では「冷蔵なら48時間以内は可能」という点は、今回改めて読み直して私自身初めて気づきました。
今まで勤務した施設では、「24時間以内」としてきたからです。



<冷凍による保存期間>


さて、母乳を冷凍した場合にはどうでしょうか。

冷凍母乳では独立した冷凍庫(−20℃)で保存する場合、12ヶ月使用可能である。健康な児では3ヶ月未満、NICU入院児では1ヶ月未満が理想の保存期間とされている。

解凍母乳は健康な児、NICU入院児とも24時間以内に使用する。

なぜ、長期の冷凍保存が可能か、また解凍後は24時間以内に使うことが勧められているかについては以下のように説明されています。

8日間冷蔵した搾母乳と、8日間冷凍した搾母乳を室温に6時間置いたところ、冷蔵母乳では有意な細菌数の増加はなく、貪食細胞の働きにより3〜4時間までは細菌数が低下していた。しかし、冷凍した母乳では細胞成分が生きていないため、室温におくと時間経過とともに細菌数が増加した。

つまり、一旦冷凍すると搾母乳でも「生きた細胞(リンパ球や貪食細胞など)が減少」してしまうので、「同じ」ではないものになるということです。


冷凍した場合の細菌の変化については、以下のように説明されています。

冷凍母乳の細菌数は、21〜28日の冷凍期間中に減少するが、増加はしない。


<どう判断するか>


冒頭で紹介した「周産期医学」増刊号は昨年のものですが、ご紹介した部分の参考文献をみると、1994年、1999年で外国の研究を元にしたもののようです。


母乳成分の貪食細胞により細菌が増加しにくい働きに関しては、基本的に変化はないと思いますが、どのような条件でどれだけ保存が可能なのかという点については十数年前の文献だけで、臨床側の私たちも「大丈夫」といえないのでは・・・と多少不安が残ります。


ちなみに我が家の冷蔵庫は5℃、冷凍庫はー18℃ですから外国のものとは条件が違います。
また、「冷凍食品の貯蔵期間の目安」は「3ヶ月」になっています。
生鮮食品の冷凍保存もよくしますが、食品でさえ2週間から1ヶ月程度で使い切るようにしています。
そういう日常感覚からいうと、文献的には3ヶ月から12ヶ月まで冷凍母乳も使用可能であっても、お母さん達への説明は躊躇してしまいますね。


そして、コメントで藤枝明里さんが「冷蔵母乳が腐った」ご体験を教えてくださいました。
本当に「腐った」のかどうかはその状況を直接確認してみないとわからないのですが、もしかすると冷蔵・冷凍母乳の使用にあたって、ヒヤリとした体験がけっこう世の中にはあるのかもしれません。
そういうヒヤリとした状況をどこにも誰にも伝える手段がないし、日本の中での搾母の使用状況を把握する機関もない現在、まだまだわからないことがある可能性を考えて慎重に使う必要があるのかもしれません。




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