乳児用ミルクのあれこれ 18 <母乳推進運動の「カプセルの内と外」>

ユニセフの各国から出されているプレスリリースに、「最も費用対策効果が高い、赤ちゃんを守る方法」という東京発の記事があります。


■ 生存率を高める母乳


完全母乳で育った子どもは、そうでない子どもに比べて、生後6ヶ月を生き延びる確率が14倍も高くなります。生後すぐに母乳を与えられた赤ちゃんは、新生児期に死亡するリスクが最大45%も減ります。

加えて、母乳育児は子どもの学習能力を高め、肥満や慢性疾患などの予防にも効果がありますアメリカとイギリスにおける最新の研究では、母乳で育てられた子どもは、そうでない子どもに比べて病気にかかることが少なく、医療費負担が少ないことがわかりました。

この「学習能力を高める」については、もしかしたらちょうどその頃話題になっていた「1歳まで母乳を与えると子どものIQが高くなる」という話からきているのかもしれません。


畝山智香子先生の食品安全情報ブログに、その話への反論が紹介されています。
「母乳で育てると赤ちゃんの能力が強化されるかもしれない」

しかしこの研究は母乳を与えると子どもが賢くなることを証明したわけではない。著者が指摘しているように、他の要因がIQに影響した可能性がある。
これまでの研究では、先進国では母乳を選ぶのは中流あるいは上流階級の母親である傾向がある。
IQへの影響はこのような社会経済的要因である可能性がある。


この点に関しては、こちらの記事で、ダナ・ラファエル氏が20年以上も前から批判していたことを紹介しました。
母乳哺育がうまくいく社会は「貧しいために自分の母乳を飲ませる以外方法がなく、人手もある伝統的社会」と「西欧のエリート社会」であることを指摘しています。

西欧社会のエリートの間でなされる母乳哺育はもうひとつのパターンです。

皆、母乳で育てるのは価値があることで楽しい経験だと知っています。

他に方法があるのにわざと母乳を選ぶのです。

もし母乳哺育以外を選ばねばならない事態になれば、彼女達は加工乳を買えるし、子どももそれで十分に健康になれるのです。


途上国の乳児死亡率を下げる解決策の一つであった母乳推進運動だったはずなのに「完全母乳」に目的がすり替わり、先進国の母親の理想をもかなえる手段として母乳推進運動が強化された時、「子どもを飢えさせたくない」という不安に直面している途上国の親の思いは誰が理解してくれるのでしょうか。


「栄養不足」と「肥満対策」「学習能力」は、同じ母乳についての話題であっても、頑丈なカプセルの内と外では全く別のことになってしまったのかもしれません。





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