母乳のあれこれ 18 <「後乳」とは何か>

前回、食事と母乳中の脂肪分の関係について引用した「母乳育児支援スタンダード」(日本ラクテーション・コンサルタント医学書院、2008年)には、「脂肪の組成の変化」の中で以下のように書かれています。

分泌し始めの母乳(前乳)に比べ、後半の母乳(後乳)のほうが脂肪の濃度が上がる。脂肪の濃度は、射乳反射が起こるたびに増えていく。

この「後乳」とは何か、しばらく考えてみたいと思います。


<どのように説明されているか>


「はじめての母乳育児と心配ごと解決集」(山内逸郎氏、婦人生活社、2003年)では、「飲み始め、飲み終わりとでは成分と味がかわります」として以下のように書かれています。

 母乳の栄養はパーフェクトで、必要な成分だけ含まれているとお話しましたが、その成分はいつも一定ではなく、味も均一ではないのです。
 赤ちゃんが飲んでいるうちに、母乳に含まれる脂肪の量がだんだんと増えて、最初の2〜3倍にまでなります。カロリーが高いので、お腹もいっぱいになりますから、赤ちゃんは満足感を覚えて、自然とおっぱいを離すことができるのです。

「新 母乳育児 なんでもQ&A 」(日本母乳の会、婦人生活社、2002年)では以下のように書かれた部分があります。

出過ぎるおっぱいですと赤ちゃんは出始めのおっぱいでお腹がいっぱいになってしまいます。出始めのおっぱい(前乳)やたまったおっぱいは、後半のおっぱい(後乳)に比べ、脂肪分が少ないおっぱいですから、あまり赤ちゃんの体重増加につながらないかもしれません。

この「終わりの方のおっぱいは脂肪分も多い」という捉え方は、1980年代の桶谷そとみ氏の本ですでに書かれていたものです。


「よくわかる母乳育児」(水野克己氏ら著、へるす出版、2008年)の中には、さらにその後乳の成分の違いについてもう少し具体的な記述があります。

 脂溶性ビタミン(A,D,E,K)は母乳中の脂肪成分に含まれますので、脂肪分を多く含む後乳(1回の授乳中に母乳中の脂肪分は徐々に増加します。授乳の後のほうの母乳を後乳と呼びます)まで児に飲んでもらうことが大切です。


<「後乳」はどのように検証されたのか?>


冒頭の「母乳育児支援スタンダード」には、確かに「前乳」から「後乳」に内容が変化しているかのように見える数本の母乳サンプルが並んでいる写真が掲載されています。


また実際に、搾乳介助をしていても最初は薄い色調だった母乳が次第に濃い色に変化していくこともあります。


上記のような「後乳」の「概念」は、一本の乳腺から何度か射乳反射がおきてグラデュエーションを描くように内容が変化していくかのようです。
であるとしたら、その質の違う母乳が同じ乳腺から分泌されたものだということをどうやって検証したのだろうかと、私にはとても不思議であり疑問を感じます。


「後乳」と言われているものは、赤ちゃんのために都合よく母乳が変化しているわけではなく、実際にはあまり活用されていない乳腺葉内で濃縮された母乳である可能性が高いのではないかと、私は考えています。


次回は、「母乳育児支援スタンダード」の中でもう少し「前乳・後乳」について詳しく書かれた箇所を紹介しながら考えてみようと思います。




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