母乳のあれこれ 20 <「乳質」についての変遷>

「母乳育児支援スタンダード」(日本ラクテーション・コンサルタント協会、医学書院、2008年)の中に、世界のあちこちでの「乳質」の考え方が紹介されています。


おおきく2つに分けて考えられるようです。


たとえば、フィリピンで「パパイヤの葉と茎で母親の乳をなでると「母乳が豊かになり色は白く味は甘くなる」と信じられていたり、日本の神社への祈願や妊娠中の乳首の手入れといった「母乳育児を成功させるための『儀式』」というものがひとつ。
日本の乳房マッサージもそのひとつに含められています。


次に、「食べ物に関する考え方」からくるものです。
たとえば「体を冷やす食べ物はよくない」や、日本でよく言われてきた「冷たいおっぱい」のような「温・冷」に分ける考え方や、特定の食べ物が「母乳に良い・悪い」というものです。


そうした中で「悪い乳質」という捕らえ方が世界中で繰り返し起こってきたとして、たとえばソクラテスが「爪に1滴母乳をたらして『質や濃度』を特定したり、英国の医師Thomas Phayer が1546年に「生活の養生法」という本の中で「母乳の色と味を吟味すべき」と主張していたことが揚げられています。


<20世紀に入ってからの「乳質」>


現代でも「悪い母乳」という考え方が残っているとして、スペインでは「女性が怒ると乳汁が酸っぱくなる」や、タンザニアでは母乳を1滴たらし、「それにハエがとまると、その母乳が母親に悪い」と非難されるなどと例が紹介されています。


そのような非科学的な言い伝えだけではなく、20世紀に入ってからは、ニュージーランドの医師兼農夫であったTruby Kingが「科学的方法」として「赤ちゃんが欲しがるたびに授乳することを禁じ、4時間ごとの授乳を母親に明示、母乳の脂肪濃度が3%以下の場合は人工乳の補足」を指示していたことが紹介されています。


さらに母乳の成分に注目したのが、桶谷そとみ氏だったといえます。
「母乳育児支援スタンダード」では、「日本でいわれている『乳質』」として、以下のように書かれています。

 日本においては、桶谷式乳房手技を考案した桶谷そとみが「乳質」を重要視した。実際、乳腺炎にかかった場合、母乳の脂質の組成は変化しないが、脂肪量と乳糖は減り、ナトリウム、塩化物が増加する。また授乳と授乳の感覚をあけすぎると水分と糖分の多い「前乳」が多くなり、母乳の色や味が変化することも事実である。

引用文中で強調した乳腺炎時の母乳の成分の変化についての記述は、Lawrence R氏の「Breastfeeding:A guide for the medical profession」(1988年)が参考文献として挙げられています。
これは前回の記事でも「どのように検証したのだろうか」と疑問を呈した箇所と同じ著者の本からの引用ですから、桶谷氏が実際に母乳の組成の変化を研究したという話ではないようです。


さて、さらに「前乳・後乳」について研究をした人の考え方が紹介されています。
次回はその部分について考えていこうと思います。




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