母乳のあれこれ 24 <母乳とアレルギー>

前回の記事で、「臨床助産婦必携 生命と文化をふまえた支援」(医学書院、1999年)の中で、以下のように書かれている箇所があることを紹介しました。

とくにアレルギー体質の人は子どもにアレルギー素因をおこさせないために、牛乳・卵は加熱して摂取するように指導する。

「産褥期の栄養」という中で書かれていますから、「授乳中のお母さんでアレルギー体質の人は」「牛乳・卵は加熱して摂取するように」という意味で書かれているのだと思います。


これは「助産師とマクロビのつながり」の中で紹介した「保育における食物アレルギーの考え方と対応」というシンポジウムの記録にあるように、1970年代以降しばらくは「乳幼児の食事制限、妊婦の食事制限の全盛期となった」という流れから書かれたのではないかと思います。


現在では、どのような考え方になっているのでしょうか?


<「Q&Aで学ぶお母さんと赤ちゃんの栄養」より>


2012年に出版された「周産期医学」増刊号の「Q&Aで学ぶお母さんと赤ちゃんの栄養」(東京医学社)では以下のような回答のポイントが書かれています。

Q. 上の子どもがアレルギーです。どうしたら防げますか?


・現在、妊娠中に行って児のアレルギー疾患の発症を予防するエビデンスのえられているものは、受動喫煙も含めた禁煙のみである。
・母体の予防的な食物除去には児のアレルギー疾患の発症予防効果はない。

妊娠中に、以前よく行われていた牛乳や卵を除去する方法は「児の食物アレルギーの発症とは関係ない」という考え方になりました。


では、授乳中はどうでしょうか?
上記の本の「児のアレルギーを予防するための妊娠中、授乳期の栄養」(p.321〜)では、「授乳中の母親の卵・牛乳(乳製品)を初めとする抗原食物制限による児のアレルギー発症予防効果」には有意差がかなったという研究が紹介されています。


そして「児のアレルギー疾患発症予防と妊娠中の食事・栄養」として、現時点の考え方が以下のように書かれています。

妊娠中や授乳中の母親に、これから生まれてくる子どものアレルギー疾患を予防するために、卵、牛乳(乳製品)、小麦、ナッツ類など、食物アレルギーの抗原として頻度の高い食品の除去を指導するのは間違いである

予防効果がないばかりか、児の出生体重の減少や免疫寛容によるアレルギー疾患予防の機会を奪う可能性すら示唆されている。かつては母体が摂取した食物抗原が児に臍帯血もしくは母乳を介して移行し、食物アレルギーを発症しアレルギーマーチが始る可能性を考え、早期からの抗原除去によるアレルギー予防策を指導することが多かったが、最近ではそれらの効果を否定する疫学研究が相次いだことや、アレルゲンの除去よりも曝露による免疫寛容を誘導することのほうが現実的ではないかというパラダイムシフトが起きつつある。

これが現在の考え方のようです。


では、牛乳や卵を加熱した方がよいかという点はどうでしょうか?
「加熱すれば原因食物でも食べられる?」が参考になると思います。

卵アレルギーのかたで生や半熟卵は食べられなくても、加熱卵は食べられるという症例は多いです。このかたがたが加熱卵で発症しないのは、卵のたんぱく質が加熱にもろい構造をしており、加熱によって壊れたからです。

こうしたことは鶏卵など一部の食品のみにある特徴であり、多くの食品にとって加熱は低アレルゲン化の有効な方法ではないことをご理解いただきたいと思います。


アレルギー疾患や食物アレルギーによるアナフィラキシーショックの情報が増えた現代、妊娠中や授乳中の食事についても大きな不安を持たれる方も多いと思います。


ただ、医学の中ではわかってきたことがたくさんあり、それらが「食物アレルギーの診療の手引き2011」(PDF注意)のようにガイドラインかされてきましたし、患者さん向けには「食物アレルギー おうちでできること」(PDF注意)のようにまとめられたものもあります。


また、「食物アレルギーに関したコメディカルに求められていること」に書かれているように、「自然食品のお店で特殊な何かを買ったりすることはない」ということです。



いずれにしても不安がある場合、自己判断であれこれ民間療法などを取り入れて遠回りせずに、医療機関に相談されるとよいと思います。




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