母乳のあれこれ 25 <母乳と「安全な食べ物」>

「臨床助産婦必携 生命と文化をふまえた支援」(医学書院、1999年)の産褥期の栄養について、以下のように書かれていることを前々回の記事で紹介しました。

またレトルト食品などをとらないよう、授乳中は自然食品を多くとるように心がけさせる。

「安全な食べ物」という意味からこういう書き方になったのかもしれません。


では、安全な食べ物とは何なのでしょうか?


<レトルト食品のリスクは?>


wikipediaにはレトルト食品とは「気密性及び遮光性を有する容器を密封し、加圧加熱殺菌した食品である」と書かれています。


もう少しレトルト食品とは何か、公益社団法人日本缶詰協会の「缶詰、びん詰め、レトルト食品Q&A」を参考にしてみましょう。
缶詰、びん詰め、レトルト食品の特性として、「経済的かつ省エネルギーである」「利用価値が高い」「保存性が高い」とともに「安全で衛生的、栄養価が高い」として以下のような説明があります。

缶詰、びん詰め、レトルト食品は空気も水も細菌も絶対に入らない容器に密封し、中身は加熱殺菌を施してあり、殺菌料、保存料は一切使用されていません。また空気を除いて密封し、真空の状態で加熱殺菌してあるので、ビタミン、その他の栄養成分の損失もあまりありません

レトルト食品はすでに日常生活で幅広く利用されていますが、おそらく「工業製品への不安」「添加物への不安」といった漠然とした不安が「レトルト食品をとらないように」というアドバイスになり、さらに「手作り、自然なものへの安心感」へと向かいやすいのではないでしょうか。


<「ヤマザキパンはなぜカビないか」>


ヤマザキパンはなぜカビないか」という話が「食の安全を守る運動をしている」人たちの間で広まったことも、そのひとつの例かもしれません。


日本食品添加物協会のサイトに「特別寄稿 一般市民を愚弄した『ヤマザキパンはなせカビないか』」が掲載されていますが、その3ページ目の「一見科学的にみせているが」のあたりでこんなエピソードが書かれています。

私は数年前に、市民講座の後の質問で「市販の食パンには保存料がたくさん入っているからカビが生えない」ということをおっしゃった方があった。その方に「市販のパンは保存料は入っていません。保存料を使用しなくても工業的に無菌的な環境で製造されたパンは、数日ぐらいの日持ちは当然です」と答えたところ、「私は自分の家で食べるパンは全部家庭で作っていますが、3日も持ちません」と答えられた。そこで、「申しあげにくいことですが、あなたの台所がパン工場より汚いからです」と答えてその方を激怒させたことがある。

「工場で生産された食品」に対しては漠然とした不安を持ち、反対に「手作り」や「自然・天然」にはなぜか安心感を持ちやすいものです。
それに対して、著者は6ページ目に以下のようなリスクを書いています。

最近流行の手作りパンは小規模な店舗で作られているために、比較的早くカビが生える。そうしたパンは結構値段が高いので、購入者はカビが1つか2つ発生した場合、カビの部分を取り除いて食べているケースがある。中にはこれこそ保存料が使われていない証拠だから安心だとまで言いながら食べている人もいる。しかし、カビの生え始めたパンは前述のように顕微鏡レベルで調べるとほとんどカビだらけである。そうしたパンを食べればかなりのマイコトキシンを食べていることになる。

そして7ページ目の「本当の危機管理は」で、以下のように書いています。

日本には、天然=安全、といった天然信仰が存在することは多くの科学者が指摘している。非常に多数認可されている食品添加物の着色料でも、科学的に相当検証された合成着色料は厳しい批判を浴び、ほとんど安全性に対して検証のなされていない天然色素があまり非難を受けていない。しかし、現実にここ数年で安全性に問題があるとして使用禁止になっている添加物は天然添加物であることから考えて見れば、この現象は明らかに異常である。


<「食品添加物」への根拠のない不安>


先日のアレルギーの記事でも紹介しましたが、味の素のサイトに「食の安全についてうかがいました」というコーナーがあります。その第1回に唐木英明氏が「食品添加物」としてわかりやすく説明しています。


第2章の「無添加はホントに安全?」では、「無添加」という表示には現時点では行政のルールがないとして、以下のように書かれています。

食品添加物が入った食品より無添加食品の方が安全という科学的根拠は何もありません。
私たち消費者が「食品添加物=不安なもの」と決め付けてしまったり、「無添加=安全なもの」と信じてしまうことが、紛らわしい表示をつける企業の行動を助長しているのだと思います。

また「野菜や果物にも天然の化学物質が含まれている」では、私たちが普段食べている野菜や果物、たとえそれが無農薬であろうと、それ自体に「化学物質」が入っている話がわかりやすく説明されています。
いかに私たちの「無添加」がイメージに過ぎないものかわかると思います。


妊娠・出産、そして育児を通して、それまでは深く考えてこなかった「食の安全」を考えるきっかけになります。
その最初に「不安」と向き合うことになり、「自然食品がよい」と言われれば信じたくなることでしょう。


助産師は自然食品を勧める側ではなく、上記サイト5章の以下の内容を説明できるだけの根拠となる知識を持つ側ではないかと思います。

野菜や果物にしても、加工食品にしても同じものをずっと食べ続けたり、過剰に摂取したりせずに、バランスのよい食事を心がけていれば、微量の化学物質をとっても何の心配もありません。

簡単な一言ですが、これをきちんと相手に説明するためには、「なぜカビが生えないか」という微生物学の知識から食品の成分についての栄養学的な知識など、それこそ教育課程で学んできたことの実践ともいえるでしょう。




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