哺乳瓶のあれこれ 14 <過飲症候群とは?>

前回の記事で、「『授乳・離乳の支援ガイド』実践の手引き」(母子衛生研究会、2008年、母子保健事業団)の中に「過飲症候群」という言葉が使われていることを紹介しました。


この手引きは、2007年に厚労省から出された「授乳・離乳の支援ガイド」をより実践的に使いやすいようにまとめられたものです。


その厚労省ガイドラインには書かれていない「過飲症候群」という言葉が、現在、小児科の中でどれだけ議論さえれているのかは私は知る立場にはないのですが、少なくとも私の手元にある新生児・小児科関連の医学書などにはまだ使われていない言葉です。


検索すると「過飲症候群と言われた」というお母さん達の体験談は数多く出てくるのですが、医学的な説明に関しては次の1件ぐらいしかみつかりませんでした。

「過飲症候群」 
ネオネイタルケア 2009年 22巻9号 メディカ出版


母乳やミルクの飲みすぎが数日から数週間続くことによって種々の症状を呈するものを過飲症候群(overfeeding syndrome)といい、体重増加は50g/日以上を示し、生後1ヶ月前後に多く見られる。
古くは人工栄養児によく見られていたが、最近は母乳栄養児において母乳不足感による不必要な人工栄養の補足で逆に過飲になっている例が多く見られる。

すなわち、哺乳後に児が泣くと、また母乳が足りないかという不安からついついミルクを追加してしまうという現象、泣けば授乳というパターンから、児は与えられただけ飲み、そして吐き、それでもまた飲むという悪循環に陥る。
児が泣く原因を見極められる母親が少なくなっているのもその原因のひとつといえる。母乳育児を進めるある産科診療所の1ヶ月健診児で体重増加50g/日以上が30%も見られるということからも、本症を念頭に置くべきである。

「ネオネイタルケア」は、NICUなどでの新生児医療に関する看護専門雑誌です。



<「過飲症候群」の症状とは>


「過飲症候群」と言われたお母さん達のブログや相談を見ると、具体的な「症状」として次のようなものがあるそうです。

・飲みすぎて苦しい
・それでそっくり返って泣く、そり返りが強くなる(後弓反張)
・よく吐く、いきむ、腹部膨満、
・多呼吸、鼻閉、喘鳴(ゼコゼコという呼吸音)
・便秘、下痢
・長期に続くと刺激に敏感になる(易刺激性)
逆流性食道炎

これらのひとつひとつを考えると、新生児期から乳児期の赤ちゃんにとっては「異常」と「正常」の境界があいまいなものがほとんどですから、「症状」と言われれば不安にもなることでしょう。



ただこれだけ「症状」がそろっているのであれば、なぜ新たな疾患としてきちんと周産期・小児医療の中で認知されていかないのでしょうか?
少なくとも「周産期医学必修知識」(東京医学社)あたりには、新たに紹介されてもおかしくないと思うのですが。


どなたか、この新たな疾患名についての議論をご存知の方がいらっしゃったら、是非教えてください。


<「過飲症候群」への疑問>


さて、「過飲症候群」について違和感を感じる理由のひとつは、「それは新生児や乳児にとって特に問題もない普通の様子なのではないか」ということが症状にされている点です。
それに関しては、次回以降少しずつ考えてみようと思います。


最も強く感じる違和感は、赤ちゃん個人の疾患のはずであるのに、「母乳が足りないのではないかという不安からついついミルクを追加してしまう現象」「児が泣く原因を見極められる母親が少なくなっているのもその原因」というように「母親が原因」という部分が織り込まれていることです。


かつて「母親の関わり方で喘息になる」と母原病という言葉が生み出されたような、「医学用語のようで医学ではないもの」を感じさせてしまうのです。


だいたいかつての母親(いつの時代かわかりませんが)は、児が泣く原因を本当にわかっていたのでしょうか?
それならなぜ、いまだに赤ちゃんが泣く原因を「お腹がすいた、オムツが気持ち悪い、暑いか寒いか」ぐらいしか、小児科関連の本では書かれていないのでしょうか?


「乳頭混乱」や「過飲症候群」という言葉が出てきてしまうのは、やはり、新生児・乳児がまだまだ十分に観察されていないからだと私には思えるのです。