新生児のあれこれ 39 <溢乳とげっぷと胃結腸反射>

「30分ぐらい背中をさすっているのですが、ゲップがでません」
お母さんたちの悩みです。


前回引用した「周産期相談318 お母さんの回答マニュアル」の「よく吐きますが?」の回答でも次のように書かれています。

赤ちゃんはよく吐きますが、機嫌が良くお乳をよく飲み、おしっこが1日6〜8回以上出ていて体重が増えているなら心配ありません。
胃の入り口の締りが弱く、空気を飲み込みやすいためゲップとともにお乳が逆流しやすいのですが、だんだん吐く回数は減っていきます。

ところが、同じ本の「258.げっぷがうまくできませんが?」の回答では、以下のように書かれています。

2)溢乳の原因がげっぷをださせなかったためと誤解していることがあり、母親によく説明する。

啼泣中に空気を嚥下していることがあり、そのような児では啼泣後にげっぷをださせておくとよい

どうも説明に矛盾があると思います。


赤ちゃんは「空気を飲みやすい」「吐きやすい」、だから、「しっかり空気を出させなければ危険」という考え方が一般的なのだろうと思います。


「赤ちゃんはよく吐くけれど、元気なら大丈夫」と言われても、やはり「吐かないようにしっかりゲップをさせなければ」と30分でも1時間でも赤ちゃんの背中をさするのが、親心なのだと思います。
YOMIURI ONLINEの発言小町「赤ちゃんのげっぷ、どこまで付き合いました?」を読むと、私たちが「何気なくアドバイスしたこと」が退院後のお母さん達にどれだけ負担をかけているのだろうかと、心が痛みます。


<ゲップとは何か>


げっぷって何でしょうか?
子供向けの解りやすい説明がありました。
「どうしてげっぷが出るの?」

げっぷもおならも、もとはわたしたちのまわりにある空気なのです。(中略)
この空気は、わたしたちが、ご飯を食べているときに、食べ物といっしょに飲み込んだ空気なのです。

たしかにそうですし、赤ちゃんも母乳にしても哺乳瓶で飲む際にも空気を多少飲み込みます。


ところで、ゲップはどうやって出てくるのでしょうか?
大人なら意図的に腹圧をかけてゲップをすることも可能かもしれませんが、ほとんどの方は無意識に出ているのではないかと思います。
たとえば食後しばらくした時とか。


私は「新生児のゲップってなんだろう」とずっと気になってきたので、自分のゲップのタイミングにもアンテナが向いています。
朝、コーヒーを飲んでいると飲んだそばからゲップがでます。
あるいは泳いでいる最中に、よくゲップがでます。


何故でしょうか?
これが「胃結腸反射」なのだと思います。
飲み物を飲んだり食べたり、あるいは泳いでいてプールの水を飲んだことによって腸が大きく動くためにゲップがでる。結果的に、胃の中の空気を押し出すことになる、といえるのではないでしょうか?


<赤ちゃんのゲップは必要か>


赤ちゃんも同じだと思います。
目が覚めて腸が動き始めたり、少し飲んだあと腸が大きく動いたり、あるいは一端眠って30分から1時間ぐらいで消化・吸収に伴って大きな腸蠕動があるときなどにゲップがでます。


「母乳の場合には空気の飲みかたが少ないが、哺乳瓶は空気を飲むからげっぷをさせる」という考え方が一般的ですが、母乳の直接授乳のあともしばらくして、おおきなゲップがでます。
そして、口のあたりまで母乳が溢れてきます。


ゲップってなんでしょうか?
それは大きな腸蠕動のタイミングではないかと思います。
ついでに空気も出している。


上記の「胃結腸反射」の記事に書いたように、テクニックで「ゲップを出させる」必要はなく抱っこしているだけで自然とゲップがでますし、出ない時にはすでにゲップになるような大きな腸蠕動が終わっている時なのだと思います。


そしてゲップのような大きな腸蠕動がおきたときには口の中まで溢れてきそうになりますから(溢乳)、赤ちゃんは危険だと感じれば啼いて知らせますし、抱っこされていれば背筋を伸ばして仰け反るような体制をとって溢乳が少なくてすむように準備しています。


そしてすでに大きな腸の動きが終わっていれば、「お母さん、ベッドに置いても大丈夫だよ」と静かにしています。


・・・と、私はいつも出産直後のお母さんに説明しているのですが、退院間近になって、冒頭の質問がくるので脱力しています。


お母さん達を不安にさせる「ゲップがでない」は、根強いものですね。


いえ、なによりも「授乳の後はゲップをさせてくださいね」とテクニックを得々として教えるスタッフの観察力と意識から変えていく必要があるのですが、ここが一番変えられない大変なところです。






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