新生児のあれこれ 40 <なぜあふれてくる(溢乳)のか>

たしかに新生児期にも、異常な病的な「吐く」という表現が必要なこともあります。


たとえばこちらの記事に書いた消化管閉塞の場合や、嘔吐(おうと)の<小児科領域の嘔吐>に書かれている、生後2〜3週間頃から目だってくる肥厚性幽門狭窄症に伴う噴水状の嘔吐が代表的なものかと思います。


これらの疾患の正確な発症率がかかれたものが見つからないのですが、通常の分娩施設に勤務していても何年に一度ぐらいあるかないかぐらいの感覚ではないかと思います。


新生児の「吐く」はむしろ、「溢れてくる」と表現するほうが正確なのではないかと気になります。


<なぜ溢れてくるか>


なぜ溢乳が起こりやすいかについて、「周産期相談318 お母さんへの回答マニュアル」(『周産期医学』編集委員会編、2009年、東京医学社)の中では以下のように説明されています。

出生時の下部食道括約筋の長さは1cmと短く、下部食道内圧も低い。新生児は哺乳時に多量の空気を嚥下するため、胃が縦型で排気しやすい構造になっている。空気とともに胃食道逆流も起こりやすく、溢乳や反芻がごく普通にみられる。

新生児の胃はその後の幼児期や成人の胃とは違う形であることは、解剖学的にも明確にされていると思います。


大人は胃の中に入ったものがそう簡単には口まで戻ってきませんが、新生児はしょっちゅう口まで溢れてくるように、解剖学的にはそうなっている。
たしかにそうなのですが、なぜ溢れてくるかという疑問に対して、前回の記事と同じように、結局は「空気をたくさん飲むから」ということにされています。


何か違うのではないかと、新生児を見ていて思うのです。


前回の記事で紹介したように「母乳であれば少量の空気しか飲み込まない」というのであれば、直接おっぱいを吸わせるしかない時代が長く続いていたわけですから、「排気しやすい構造」に進化していく必要はなかったのではないかと思いますけれど。


空気をどれだけ飲みやすいかということよりも、むしろ、体の中で腸が大きな割合をしめる新生児の体型で、大きな腸蠕動が起これば口の方向に向って圧を逃すしかない、溢れさせるしかないことが理由なのではないかと思うのです。


とくに生後1〜2週間ぐらいで体重増加期に入った新生児のお腹は、急に大きくなります。


大きな腸がグッと動いて、下から突き上げられても胃の入り口が閉まっていたら苦しいのではないかと・・・。



おそらく小児科の先生方が、こうした「お腹の大きい」「苦しそうに」「吐く」赤ちゃんを見る機会というのは、何か異常があって受診した赤ちゃんでしょうから、エコーをみて「空気が溜まっている」ことが原因のひとつという判断もあるのだと思います。


でも新生児について書かれた医学書の中にも、成人では常識的な「胃結腸反射」に関する記述がほとんどないことは、まだまだ新生児の正常な日常というのは観察の余地があるのではないかと思うのです。





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