自律授乳のあれこれ 3 <「規則授乳」に対する「自律授乳」>

新生児医療や母乳に関する本をあれこれ探してみたのですが、「自律授乳とはなにか」定義らしいものが明確にされているのは見つかりませんでした。


いえ、「自律授乳」について書かれたものはもちろんあるのですが、私にはとても定義されたものとは思えないものでした。
それに関しては後日少しずつ考えてみようと思います。


今回は、「自律授乳」という言葉が広がる前の「規則授乳」について考えてみようと思います。


<「規則授乳」という方法>


何度か書いてきましたが、すくなくとも1980年代初頭までは日本のほぼ全ての施設が「規則授乳」だったと思います。


ただ、この「規則授乳」という言葉も正確な定義があったかどうかまだ見つけられていないので、あくまでも私の理解ですが、1980年代初頭では以下のような感じです。

・出生後8時間たったら、5%ブドウ糖水を10ml飲ませる。
・消化管閉塞の疑いもなく、初期嘔吐もなければ次回から3時間ごとにミルク を飲ませる。
・ミルクの補足量は、「生後日数+1×10ml」とする。
・生後1日の午前中から、母親が授乳時間に授乳室へ行き直接授乳して、「足りない分」はミルクを足す。
・母乳が生後日数に必要な量に達すれば、ミルクの補足をやめる。

この「足りない分」の判断にするのが、前回も書いた「母測(ぼそく)」という母乳を飲んだ量を計算する方法です。


まずオムツを替えて、授乳直前の服を着せたままの体重を測定する。
母乳を飲ませた後に、途中でウンチやおしっこをしてもオムツを替えずにそのまま体重を測り、前後の差を測定することで「母乳を何g飲んだ」と計算する方法です。


<「規則授乳」という思い込み>


今考えると、「新生児は3時間毎に授乳と睡眠を繰り返す(はず)」ということ自体がそもそも仮説にしかすぎないものです。
実際に新生児室では時間に関係なく泣いていましたし、反対に「授乳時間だから」といって起こしてもおきなかったり、頑としておっぱいもミルクも飲まないことはしょっちゅうありました。



また、生後1〜3日目ごろの新生児だと、「おっぱいを30分も飲ませたのに、飲んでいないどころか体重が減ってしまった」とお母さん達がショックを受けることはよくありました。


こうした赤ちゃんの様子を日常見ていれば、「3時間毎の規則授乳」という方法が、まったく不自然な方法であるという意見が現場から出てきてもよさそうなものですが、新生児はそのように管理するべきものであると教育されればそこから違う発想にはなかなかなりにくいものです。



それは規則授乳に限らず、反動のように広がっている「完全母子同室」「完全母乳」をさせる施設も同じだと思います。


<「規則授乳」に対する「自律授乳」という考え方>


さて、上記のような3時間毎に赤ちゃんが眠っていても起こして飲ませる、あるいは泣いていても次の授乳時間までは何もせずに待たせる「規則授乳」に対する方法として、「赤ちゃんが欲しがるときに欲しがるだけ授乳をする」という「自律授乳」という言葉が使われたのではないかと思います。



このあたりの変遷についてまとめられたものが、一ヶ所見つかりました。
「母乳育児支援スタンダード」(NPO法人日本ラクテーションコンサルタント協会、医学書院、2009年)の、「自律授乳を援助する具体的方法」(p.167)に以下のような記述があります。

以前は、児が泣くまで授乳を待つ、あるいは決められた授乳時間がきたから授乳を開始する、という「定時刻授乳」がとられることが多かった。これらの方法が不適切であることは前述したが、それに変わる「自律授乳」の適切な方法について母親が知る必要がある。

「定時刻授乳」という言葉は始めて知ったのですが、「規則授乳」と同じと考えてよいかと思います。
ただ、「児が泣くまで授乳を待つ」はむしろ、1980年代頃の「規則授乳」というよりは「自律授乳」に近いのではないかと思います。


この点でも、案外、周産期関係者の間でも「規則授乳」と「自律授乳」は明確に定義されていないものであり、どのように理解され現場が変化してきたのかもまだ、全体像がつかめていないといえるかもしれません。


「自律授乳」とは何をさしているのでしょうか?