産科診療所から 10 <経営者と一心同体>

小規模の産科診療所とはいえ、前回書いたような設備投資に巨額の資金が必要ですし、看護スタッフ、事務そして厨房や清掃など20人以上のスタッフを雇用していますから人件費が大きくのしかかっています。


これだけのスタッフを路頭に迷わせるわけにはいかないので、経営者としても本当に大変なのだろうと思います。


総合病院だったら標準的な医療に必要な物品を購入することを施設側に要求することは、あまり躊躇しませんでした。
でも診療所に移ってからは、全体のバランスと優先順位を考えながら少しずつ改善したり購入してもらったりしています。


特に先代の施設からいるスタッフは、気持ちが経営者と一心同体のようにならざるを得ない印象がありました。


私が診療所に移った10年前は、院内感染標準予防対策そのものも知らないようでした。
なんとか節約することが、スタッフとして有能であると思っているようです。
家庭の節約術の延長のような感覚は医療現場にはそぐわないものであることを理解したり、根拠を持って経営者に要求するという新たな文化を受け入れることに時間がかかっています。


<診療所の人件費とスタッフ確保>


人件費が経営を圧迫していることは事務からもしょっちゅう言われているので、少ない人数でなんとか業務をこなすことになります。


半日勤務など短時間のパートを何人か入れて頭数はけっこういますが、残業や急な呼び出しなどは限られた常勤スタッフの肩にずっしりと負担がかかってしまいます。


スタッフは子育て中の30代から40代、あるいは親の介護がかかってくる40代から50代なので、誰かが一人が体調を崩したり家庭の都合で休むと、他のスタッフが10日や2週間の連続勤務という事態になります。
もう一人、できれば二人ぐらい常勤を増員してくれればこうした無理な勤務体制を避けられるのですが、その人件費が診療所を破産させるか今のままでだれかが体を壊すまで頑張るしかないのかというところです。


有給休暇消化どころか公休さえ取りきれていないという総合病院ではありえない労働条件でも、経営者側に改善を要求する以前に、その状況への疑問をもてないくらいこちら側から経営者の気持ちを察してしまって自主規制しているようなところがとても感じられるのです。


<話し合うという土壌がない>


小規模と言っても、20人以上のスタッフがいて各部署での調整が必要な事項があります。


ところがあまりに家族的すぎるのか、あらたまった「会議」の場を設定し、自分の意見を伝え議論するということの訓練がされていないスタッフがほとんどです。


「こうしてもらえるとよい」という改善の提案も、直接伝えると「そうしていなかった」ことを注意されたかのように受け止めやすいことが多く、業務上の合理的なやり取りというのが難しい距離感だと感じます。

要望を伝え合うことも、「角がたってしまう」ことのように感じているようです。


スタッフ間でも話し合う土壌が育っていないのに、経営者と議論するなんてありえないことのようです。


直接伝えることを避けてなんとなくお互いに察し、波風立てずに和気あいあいと一見チームワークはよいのですが、何かが起こると「そんなことがわかってもらえていなかったのか」という事態になりやすいのです。


情報がつたわりにくく、変革しにくいのはそのあたりの理由が大きいのではないかと思っているのですが、他の産科診療所はどうなのでしょうか。





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