看護基礎教育の大学化 5  <世界的な看護師不足の裏にあるもの>

前回の記事に書いたアメリカの看護師不足と海外からの補充は世界的に起きているようです。
むしろ、日本語の習得がネックになって思うように進まなかった日本が例外的なのかもしれません。


10年ほど前のものですが、「看護師不足の世界的な傾向」というインタビュー記事がありました。(引用先では「看護師不足な」になっていますが、誤植と思います)


その「国際的に見て看護師の需給はどうなっているのでしょうか?」では、以下のように書かれています。

世界的に看護師不足です。たとえば英国では不足を補うために南アフリカやフィリピンから看護師を補充しました。外国からの採用は、最も費用効果を考えずにすむ最速の介入方法ですからね。しかしこちらは、世界各国からブーイングを受ける結果になりました。なぜなら、貧しいながらもなんとか看護師を養成したのに、その人たちをイギリスが吸い取る結果になったからです。南アフリカの場合で言えば、10倍近い給料で引き抜かれてしまう。本人は良いでしょうが、今度は南アフリカはさらに経済状態の悪いガーナから看護師の労働力を吸い上げる。貧しい国が結局最後には、苦労することになってしまいます。

もし日本の英語教育が進んでバイリンガルな社会になっていたら、おそらく日本の看護師もアメリカやイギリスへ向かい、途上国から看護師を大量に受け入れることになっていたことでしょう。


アメリカやイギリスで働いた方がかっこいい看護師のように思う人も出てくることでしょうから。


英語が苦手な国が幸いしているといえるかもしれません。



<看護師の階層・イギリスの場合>


そのイギリスの看護師の制度はどのようになっているのでしょうか。再び、「看護師の階層 アメリカとイギリスの看護師」から引用させてもらいます。

[階層A]補助看護師、看護師を補助し、病棟における下働きをする。
[階層B]上記と同様であるが、長年の勤務により熟練している。
[階層C](補助)看護師。いくつかのトレーニングを受け、中には正看護師と同じぐらいの技量を保つ。(日本の准看に近い技量と想像します)
[階層D]新人の正看護師。
[階層E]看護師登録後、6ヶ月の経験を持つ。多くの場合、Postregistration courseを取り、Senior Nursesの資格と監獄の下に特集分野の教育を受ける。
 (引用もとでは「特集」になっていますが、「特殊」かと思います)
[階層F]上級幹部看護師または下級シスター。Postregistration course 1〜2年を終了しており、看護の特殊な領域に専門化している。通常病棟の責任者(婦長または主任か)をしている。
[階層G]シスターまたは役職看護師。全体の病棟ユニットの幹部たちに対して責任をもつ。看護師としての仕事はほとんどしない。(総婦長か)
[階層H]予算、看護師再雇用、看護研修などの管理の仕事を行う。
[階層I]政策および計画決定。スタッフ管理などさらに広範囲の責任をもつ。

医療関係者でないとわかりにくいかもしれませんが、イギリスの「階層C〜G」あたりが日本で普通に看護師として思い浮かべる人たちかと思います。


イギリスの場合は、高度専門看護師と無資格者の2極化には進んでいないようです。
あるいは王制ですから、もともと階層社会であることも影響しているのかもしれません。


冒頭のインタビュー記事には以下のように書かれています。

離職期間が長い看護師と助産師を現場に復帰させるために、無料の再教育と訓練、そしてその期間の財政的支援を行うパッケージが2001年4月に導入されたこともあって、復帰者数は増加を見せています。

これは再雇用のためのプログラムも効果があったのだとは思いますが、上記階層C〜Eまでの間にそれだけのスタッフを吸収できたからとも言えるでしょう。


アメリカのように病院が急性期に特化して、高度専門看護師と無資格者のケアが主流になれば、通常の看護師には働く場所はなくなることでしょう。


いずれにしても日本の看護職が「看護資格の一本化」で思考停止してしまっている間に、医療の制度も社会の流れもめまぐるしく変わり、むしろ看護職が細分化される方向に進んでいました。
「スキルミクス」という、まるで最先端の良い方法かのような呼び名で。



今日の記事のリンク先の記事はいずれも今から10年以上前のものです。
その頃から日本でも「スキルミクス」という言葉が、一部の人たちで出始めていたのかと、改めて知りました。
次回はそのあたりを考えてみたいと思います。






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