水は誰をも受け入れてくれる

ここ20年程で、公共プールの使い方がだいぶ変化した印象があることを「プールの中の境界線」で書きました。


「泳ぐ」しかもけっこう真剣に泳ぐ人たちと、自由に水の中で「遊ぶ」人たちとの棲み分けぐらいだったものが、「水の中を歩く」「水の中で踊る」ための棲み分けができたことは歴史的な変化といってもよいかもしれません。


もうひとつ、これは全国的ではなく私の住んでいる地域のプールだけなのかもしれませんが、変化がありました。


それは「障害者専用コース」ができたことです。


<体に障害を持っても泳ぐ>


20年ぐらい前でしたか、1コースを借りて練習をされているグループがありました。
プールサイドぎりぎりまで車椅子や杖が必要な方たちでした。
若い人から年配の方まで、いつも数人ぐらいで指導者がついて練習をされていました。


片足が切断されている方や半身麻痺の方などですが、貸しきりの時間帯以外にも自主的に泳ぎに来ている姿をよく見かけました。
そのハンディに気づかないほど早く泳がれる方もいらっしゃいました。


おそらく追い越される時にバランスを崩しやすいとか、コースエンドについて歩いて移動する際にゆっくりしか動けないなど、ご本人たちにしかわからない使いにくさがあったのでしょう。


しばらくして、月に何回か「障害者専用コース」ができたのでした。
その時間なら安心して泳げるようになったのではないかと思います。


ところがいつからか、またそのコースも廃止になってしまいました。


ここ20年程で、プールの来場者も高齢化がとても進んだ印象があります。
泳いでいるひとたちの9割ぐらいが70代前後ではないかと思うような時間帯もあります。
障害者と高齢者の境界もあいまいになったことも理由のひとつかもしれません。


30代の頃に、初めて半身麻痺や片足切断などの障害を持った方々の泳ぎを間近で見ました。
それまで私は必死でキックして、必死で水を掻くことで速く泳ごうとしていました。


ところがその方たちは動かせない部分があるからこそ体幹部がしっかりとしていて、無駄のない泳ぎと速さが出ていることがわかりました。


そして将来私ももし半身麻痺になっても、障害をもってもプールに来て泳ぎたいし泳げるのだと、とても励まされたのでした。


<心に障害をもっても泳ぐ>


心というよりも知的障害者といわれる方々も、長年泳ぎにきていらっしゃっていて、直接話をしたことはないのですが顔見知りになりました。


小学生や中学生だった彼らや彼女達も、りっぱな成人になりました。


私がそのプールで泳ぎ始めた頃に比べて、その方たちも長く泳げるようになりました。私と同じ、20年も泳いでいるのですものね。
継続は力なりだと思います。


そして、何よりも水の中で仲間たちといつも楽しそうです。
いつも曜日と時間帯が決まっているのですが、姿を見ないとなんだかこちらが淋しくなります。


また自閉症発達障害と思われる方たちも、けっこう一人で来て黙々と泳いでいます。


時に周囲が見えないことで「マナーの悪い人」のように受け止められてしまうこともありますが、案外、その人の泳ぎのパターンをみてさりげなく譲ったり追い越したりしている人も多いと感じます。


水の中っていいなぁと思います。