看護基礎教育の大学化 17 <看護業務基準と看護手順>

私たち看護職の業務の核ともなるものがあります。
それが「看護業務基準(2006年度改訂版)」です。


私が学生の時からこの「看護業務基準」という言葉があり、上記リンク先にあるように「看護職の責務を記述したもの」として各施設で作られていました。


ただ、日本全体で統一したものができたのが、これを読むと1995年だったようです。


1990年代には「根拠に基づいた医療」や「インフォームドコンセント」という言葉と概念が広がり、安全面、倫理面への責任を明確にする必要性が高まりました。
また介護保険が始り高齢者に対する療養の中での介護と看護を規定する必要や、災害医療の中での看護も求められるようになりました。


そして改訂されたのものが2006年のようです。


今はネットに公開されているので簡単に検索できますが、2000年代に入っても看護協会が看護業務基準を作成していることさえ知りませんでした。


さらに、この基本的な基準を元に、各診療科の看護に合わせた基準が必要になります。
たとえば、周産期医療の中の産科診療所の看護業務基準です。



ところが、探しても探しても参考になるものはなく、自分たちで不完全なものを作るしかないのです、今でも。
よその施設はどのようなものを作っているのだろうと、知る機会もありません。


<看護手順とは何か>


看護業務基準に対して、看護手順というものがあります。



看護業務の中には、たとえば入院したときの対応から検査や処置、あるいは日々の入院生活援助まで何千という業務によって組み立てられています。


それぞれのスタッフがそれぞれ自分の方法でそれらを行えば、業務がスムーズに遂行されないだけでなく、大きな事故を引き起こすことにもなります。

あるいは患者さん側から見れば、スタッフがそれぞれ違うやり方をしていれば不安になることでしょう。


そのために、具体的にどのように動くか、何に気をつけるかという手順を決めていく必要があります。


たとえば注射をする場合の手順について、「勤医協中央病院看護技術マニュアル2012版が参考になると思います。
「主な手順」だけでなく、「要点・ポイント」まで書かれています。


以前は手順といえばこの「主な手順」までを書いたものが主だったと思います。
ところが医療事故予防対策が進むにつれて、事故を未然に防ぐためのポイントが必要になってきました。


そしてこの施設では、毎年改訂が行われています。


言語化されにくい・・・手順の限界>


上記の施設のマニュアル(手順書)はとても見やすく整理されていること、きちんと毎年改訂されている点ですばらしいし、参考になります。


ところが、それをプリントアウトして自分の施設で使用できるかというと、それぞれの施設の業務の流れや使用している物品の違いなどから、自施設にあったものに作り変えていく必要があります。


これまで勤務してきた総合病院でも、また現在の産科診療所でも自施設にあったこの手順づくりに頭を悩まされ、そしてかなりの時間をとられています。


それぞれの施設にあった手順というオリジナリティが必要である反面、看護技術の原則や医療事故防止策という観点を緩めてはいけないため、手順を言語化することは本当に難しいと痛感しています。


そしてこの手順もまた、他の施設ではどのようなものがあるのか、2000年代に入るまでなかなか知る機会がありませんでした。


<「実践的看護マニュアル」>


たとえば産科では日常的に使われている分娩監視装置ですが、この手順ひとつをとっても、全国で統一されたものはありません。


トランスデューサーをベルトで固定し器械をオンにして記録する・・・と簡単そうですが、確実に胎児心拍や子宮収縮が計測されているか、産婦さんに負担のかからない姿勢でかつ確実に計測するためのポイントは何か、記録用紙の取扱いの注意点はなにかなど、実践に必要な点が網羅された手順は書店で探してもありそうでないもののひとつです。


今も自分で考えながら、クリニック用に作っています。


看護の世界では、こうした自分達が日々実践している技術でさえ手順書として言語化することや、全体で共有することが遅れているのではないかと思います。


初めて「こういう本を求めていた」と思えたのが、「実践看護マニュアル(共通技術編)」(川島みどり編、看護の科学社、2002年)でした。


たとえば、入院時の患者さんへの対応から書類の流れまで書かれた全国共通の手順書は、それまでありませんでした。
ようやく日本の看護界の手順の共通化が始ったと思いました。
さらに周産期看護の手順書が出ることを心待ちにしていましたが、未だにありません。


そしてその「実践看護マニュアル」もアップデートがないままです。


書店の医学・看護コーナーのあまたにある看護の本の中に、いつまでも欲しいものがない。
看護業務の基本となる部分がいつまでたっても言語化されない。


反対に言えば、各科の看護業務の手順が言語化されれば、看護学生は最高の教育を受けられることになるともいえるでしょう。
根拠に基づいた看護の原則を学べるわけですから。
そして、変わらない原則とともに、新たな看護の必要性にあわせていく変化があることも学ぶことができることでしょう。


それが科学的な看護だと思えるのです。






「看護基礎教育の大学化」まとめはこちら