看護基礎教育の大学化 21 <一般教養として学びたいもの>

もし私がもう一度看護学生として学ぶ機会があれば、是非、医療経済と医学史・看護史、そして統計学・疫学を一般教養として学びたいと思います。


医学史・看護史は私の学生時代にもありましたが、こちらこちらに書いたように、間近の半世紀ほどの歴史、つまりまだ言葉でまとめられていない歴史をどうとらえるかという視点を学べるような授業があったらと思っています。


統計学もあったと思いますが、看護研究のための統計処理だったような気がします。
もちろんそれも大事なのですが、むしろ、「そういう統計処理をして導き出された主張は本当に根拠があるといえるのか」という視点を育てる方が、臨床実践では必要になります。


そして患者さんにニセ科学的なものを「効果がある」と勧める立場にならないためにも必要だと、最近は痛感しています。


<看護職の苦手な分野は経済>



私自身が一番苦手なものが、経済的なことです。
特に医療経済的なことがまったくと言ってよいほどわかっていません。


おそらく私だけでなく、看護職一般にそうではないかと思います。
というのも、医療に関する経済を学ぶ機会がないからです。


「医療費が増大しすぎている」と言われても、具体的にどうなのか、それは日本の将来に禍根を残すほどなのかという見当もつきません。
もっと身近なところで言えば、健康保険制度の根幹である診療報酬についてもよくわかっていません。



前回の記事で紹介した看護教育カリキュラムの変遷を見ると、1997年から導入されているカリキュラムでは社会保障制度についての授業がくわえられていてうらやましい限りです。


ただ、もっと看護にとって基本的ともいえる医療保険制度や医療経済についての授業は未だにないようです。


<医療のしくみの基本的なことがわかっていない>


たとえば先月話題になった帝王切開に対する診療報酬引き下げに関しても、産科診療所ではおそらく大きな影響をうけます。


こういう時にも「おそらく」としか書けないほど診療報酬制度についての知識が私自身にないため、この問題が産婦さんや看護スタッフにどのような影響を与えるのか、どのように声をあげる必要があるのかわかりません。
職場にまわってきた日本産婦人科医会、日本産婦人科学会、日本周産期・新生児学会による要望書に署名しただけでした。


また、分娩は自費診療が基本で異常に対しては保険が適応されますが、具体的にどのようになっているのかなど基本的なことも知らずにきてしまいまいました。


自分で勉強したいと書店を探しても、看護職向けの医療保険制度に関する本というのもありません。


<看護の視点からの意見を出せない>


対象にとってよい看護をしたいと考えても、医療制度を支えるお金の問題にあまりにも無知なので、「めまぐるしく変化する医療体制と看護で書いたように、結局はその時その時の制度の変更に流されてしまってきたのではないでしょうか。


医療全体を知るための授業、それが医療専門職を育てるための何よりも大事な一般教養ではないかと思います。


本当によい看護というのはその場その場の自己満足を満たすものに終わってしまうのではなく、社会全体でよい看護であるかどうかであり、半世紀ぐらいの過去に学びながら半世紀先の社会を思い描く、そのような視点を持てる人材が多く育つとよいと思います。






「看護基礎教育の大学化」まとめはこちら