記憶についてのあれこれ 6  <カシューナッツ>

先日のらばQに「想像していたのと違う・・・『カシューナッツ』の収穫前の姿は意外と知られていない」という記事がありました。


そのカシューナッツの写真を見て、驚かれた方も多いのではないかと思います。
海外の食材が珍しくない現在でも、この実物をみた人は少ないことでしょう。


私も30年ほど前に過ごした東南アジアのある地域で、実物のカシューアップルとその先端についているカシューナッツを見たときには、植物と言うのはおもしろい進化をするのだなぁと感動した記憶があります。


それとともに、カシューナッツというと私にはひどいアレルギーの記憶が蘇ってくるのです。


<マンゴーアレルギー>


最近ではさまざまな食物アレルギーがあり、アナフィラキシーショックという生命に直結する重症な症状が起こることやその対応についても知られるようになりました。


1970年代から1980年代にかけてはまだ、アレルギーについてわかっていることは本当に少なく、こちらの記事に書いたように私も新卒のときに薬剤のアナフィラキシーショックを起こした患者さんに遭遇して、「こんなことがあるのか」と怖い思いをしました。


あるいは、食物アレルギーに対して積極的な除去食が勧められ始めたことが、助産師とマクロビオティックの広がりの背景にあるのではないかということはこちらに書きました。


1980年代半ばにはまだ食物アレルギーを起こすものとしてわかっていたものは限られていましたし、ましてや海外からの果物は高価で庶民にはなじみのないものでした。


そんな時期に東南アジアに赴任して、マンゴーのおいしさと安さに感動しました。
現在は珍しくないマンゴーですが、当時はまだ日本ではお目にかかることはありませんでした。


熟す前の青い実を薄く切って、小魚を塩漬けにしたものを少し付けて食べるだけでも食欲がすすみました。
また熟したマンゴーを半分に切って、スプーンで食べるときのあの幸福感!
日本に帰る前に、食べられるだけ食べようと思いました。


ところがしばらくして、マンゴーを食べた翌日になると口の周辺にひどいかぶれが起きはじめたのです。
さらに、マンゴーを切ったナイフやマンゴーの汁がついたお皿にふれるだけでもかぶれるようになりました。


現地スタッフの看護師に聞いてもアレルギーのことは知らないらしく、「マンゴーの繊維の多い部分を食べたからではないか?」という答えでした。


でもどうやらマンゴーとかぶれが関係があると感じたので、泣く泣くマンゴーを諦めたのでした。


一時帰国したときにその話を友人にしたところ、「マンゴーはウルシ科だからかぶれる人がいるらしい」といわれました。当時は今のようにすぐにネットで調べられる時代ではなかったのですが、小学生の時に山の中で漆の木にさわってひどくかぶれたことがあったので、なるほどと思いました。


それでマンゴーは食べないように、さわらないように気をつけていたのですが、タイに旅行したときにおいしそうな果物を路上で買って食べた後にまたかぶれを起こしました。見た目は通常のマンゴーではなかったのですが、マンゴーの一種だったようです。


<実物のカシューナッツをみた>


さて、冒頭で紹介したカシューアップルの実物を見たのは、私の送別会のことでした。
日本へ帰る私のために現地の友人が美しい海辺でのバーベキューを計画してくれて、「見たことがないでしょう?」と持ってきてくれたのでした。


その地域はカシューナッツを生産していて、市場では時々ロースト前のカシューナッツが売られていましたが、カシューアップルを見るのは初めてでした。らばQに書いてあるように、すぐに腐敗するので流通には適していないようでした。


カシューアップルは名前の通り、さわやかなりんごの味でした。


カシューナッツの部分は、バーベキューで殻の部分を焼いて実の部分を食べたのですが、焼き栗のようなこうばしさでした。
もう二度と味わう機会はないかもしれないと、現地を離れる寂しさとともにしんみりとしたのでした。


カシューナッツでもかぶれた>


さて、翌日ぐらいから私の目の周辺が腫れ始めました。
日本へ帰国するという直前のことです。


勤務していたICM(国連移住機関)のドクターに見てもらったら「なにかアレルギーではないか」と言われました。
普段と違うことで思い浮かぶことといえば、あの生のカシューナッツです。
バーベキューで焼いて食べたことを話したら、「おそらくそれだ」と言われました。
焼いた殻を触った手で、目の辺りをこすったのだと思います。


カシューナッツにはウルシ科であることが書かれています。
そしてその種子殻には「ウルシオールを多く含有しており、加工の際にかぶれるなどのアレルギー反応をきたす人も少なくない」とあります。
なるほどです。


2年間の難民キャンプでの勤務と初めて海外で生活したことなど、さまざまな思いが蘇ってきて涙もろくなっていたので、さらにかぶれをひどくしました。


感動的に彼の地を出国する予定でしたが、まるでお岩さんのように腫れた顔で現地を飛びたったのでした。


成田の入管でも写真とは別のあの顔で、よく入国させてくれたと思います。



大切な思い出の最後をちょっと黒くしてくれたのは、生のカシューナッツでした。
でも加工したものは大丈夫なので、おいしく食べています。
あのアレルギーの記憶とともに。





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