看護基礎教育の大学化 23 <大学化の矛盾・・・保健師教育>

少し行きつ戻りつしますが、また看護基礎教育の大学化についての続きです。


1990年代から本格化した看護大学の広がりと、その4年間の中で看護師・保健師そして助産師の資格取得もできる統合教育というものが始められたことで、実質的に教育時間を減らされたのが保健師助産師の教育課程だといえます。


そのあたりについて、今回は保健師について考えてみようと思います。


<急増した保健師


多くの方は、保健師助産師看護師という3種の看護職の違いについてはよくわからないのではないかと思います。


助産師は出産に関連した看護職というのはわかりやすいかもしれませんが、保健師となるとさらにわかりにくいかもしれません。


出産を機に、お母さん達は保健センターで保健師さんと関わる機会が増えて、保健師の存在が身近になることでしょう。


1990年代に看護大学が急増する以前は、この保健師養成も私たち助産師と同じく、看護学校卒業後に1年間の保健師学校を経て保健師の国家資格を得ていました。


保健師さんというとたまに企業などの健康管理室勤務の方がいる程度で、大半が保健センターで働く地域の公衆衛生のスペシャリストという印象でした。
私自身も新生児訪問で数年間、保健師さんと関わる機会がありましたが、母子保健から精神疾患、介護、さまざまな分野で地域住民の健康管理に関わっている専門職であることを再認識しました。


1990年代後半になって、看護大学での保健師助産師・看護師の統合教育によって、病院に就職する看護師や助産師の中にも「保健師の資格を持っています」という人が増え始めました。
保健師資格をもってはいるけれど、実際には保健師業務には従事したこともない人たちです。


この大学での統合教育が始る以前は、1年間に保健師学校を卒業して保健師になる人数は、助産師学校の同程度の2000人ぐらいでした。


ところが現在は、14000人以上の保健師が毎年誕生しています。


<急増した保健師資格取得者>


保健師教育の9割が大学で行われるようになったこの二十年ほどの問題点をまとめた「保健師教育の変遷と今日的課題」という論文がネット上で公開されていました。


そのp.950に「図1 保健師教育機関の校種別定員の推移」があります。
1991年には2000人程度の養成数であった保健師が、2007年には14000人になっており、その9割が大学で教育を受けています。


その論文の冒頭でも「直近の15年余で養成数が5倍に急増した反面、保健所や市町村が顕著に減り、結果として必要な実習施設の質・量の確保が困難になってきている」とあります。


卒業までに分娩介助10例の経験が国家試験受験のために必要とされる助産師の場合には、看護教育の大学化が進んでもほとんど年間の養成数はかわらずにいます。


この数倍に増えた保健師養成を受け入れる実習場所にはどのような問題があり、卒業後にその資格を生かすことができているのでしょうか?


<需要と供給のアンバランス>


保健師教育機関の変容と教育上の課題」(p.953)では、「学生の急増に伴う実習施設の確保難」があげられています。
全国の常勤の保健師数が24000人程度であるのに対して、実習予定の学生数は12000人とのことです。
以前と比べて、数倍の人数の学生実習を受け入れていることになります。


それだけ実習を受け入れても、「ほぼ卒業生の1割が(保健師として)就業するのみ」という需要と供給のアンバランスがあります。


さらに学生自体「保健師を希望しない学生が8割を占める」わけですから、学生を受け入れる現場の保健師さんたちの心境はいかばかりでしょうか。


「4年間で看護師・保健師の二つの国家資格の受験資格が得られる」ことを看護教育の「大学化が目的」になった議論で認めてしまった弊害のひとつともいえるのではないかと思います。


保健師のペーパードライバーを量産することで、現場の業務の負担を重くし、さらに保健師の専門性を引き下げてしまったのではないでしょうか。


あくまでも保健師さんの仕事を見ての外野からの感想です。
でも私たち助産師や看護師と同じく、現場では教育制度を大きく変えさせられたことへの現実的な問題点をたくさん感じても、それへの反論をするほど時間も無いほど目の前の業務に追われてしまっているのだろうと想像しています。





「看護基礎教育の大学化」まとめはこちら