出産・育児とリアリティショック 3  <周産期のメンタルケア>

精神疾患」という概念が大きく変化した20年間のあいだに、周産期でもその妊娠から出産前後の時期の精神異常に対する研究が進み、その対応もある程度まとめられてきました。


1990年代には「マタニティブルー」が誰にでも起こりうること、その早期発見と治療や対応方法についての標準化ができ始めました。
地域の保健センターでも、新生児訪問でお母さん達のSOSを早めに見つけて保健師が見守る体制ができ始めました。


ただ、まだ総合病院で出産される方の中には精神疾患合併の方は珍しい時代でした。


2000年代に入ると、うつ病や不安障害で内服を継続している妊婦さんがめずらしくなくなりました。


私の勤務先のクリニックは硬膜外麻酔による無痛分娩も選択できることもあるからだと思いますが、月の分娩予定者の3割ぐらいが「うつ既往」「パニック障害既往」「摂食障害」などの精神疾患既往や現在も内服中という方です。


<周産期の精神疾患は増えたのか>


あくまでも「増えた」という私の印象にすぎないので、実際にどれくらいなのか統計を探しているのですが、私が得られるレベルの資料では見つけられません。


ひとつには、ある精神疾患の概念が作られると統計上はその疾患が増える可能性があります。
たとえば、「精神医学」の「21世紀」に書かれている、「操作的診断基準の不適切な使用などにより、相対的に純粋なうつ病患者が減少し神経症的・適応障害的なうつ病患者が増加した」というようなことも起こるのでしょう。



マタニティブルーという言葉が社会に広がってから、「私はマタニティブルーです」と自分に言い聞かせて落ち着いているような方から、すぐに精神科に受診が必要と思われる方まで、その程度は幅広いものがあります。


どこからが異常なのか、見極めにくいこともひとつだといえるかもしれません。



<実際の対応>


精神疾患合併妊娠をクリニックレベルで対応するかどうか、ハイリスクとして2次・3次施設に紹介したほうがよいのかという点で、なかなか正解がみえない状況です。


初診の時点で、精神疾患の既往があり現在も内服治療中の方はかかりつけ医と相談して判断してもらうようにしています。


精神疾患合併の方は無痛分娩があることで安心できると選択されていることが多いのでできるだけ受け入れるようにしていますし、むしろご自身の精神の変化に自覚的なので既往歴がある方の方が早めに対応しやすい場合が多いと感じています。


また小規模施設のメリットとして、スタッフの目が行き届きやすく親密な関係の中でケアが行われるということもあります。
その結果、退院後も症状が悪化すればすぐに相談してくださるので、保健センターへの紹介や受診などを勧めやすいことがあります。


ただ、退院後の状況が実際にどうだったのかというフィードバック(情報)が少ないので、わたしたちの関わり方がよかったのか悪かったのかはわからないままのことが多いままです。


<周産期のメンタルヘルスケア


むしろ妊娠・出産時に「問題の無かった」と思われていた方が、退院後の環境によっては精神的に不安定になることもあります。


母親だけでなく子どもの成長にも深刻な影響を与える可能性が高いことが、周産期の精神疾患の特殊性ともいえます。


そんな1990年代からの周産期の精神障害への対応の実践が、ようやくまとめられ始めました。
この本もその1冊です。

マタニティサイクルとメンタルヘルス

久米美代子・堀口 文氏編著、医歯薬出版株式会社、2012年

ただ、まだ女性の妊娠・出産の時期の精神的な変化については十分に観察されているとはいいがたいので、その変調がもたらす行動の特殊性も今後少しずつ研究が進むことでしょう。




「出産・育児とリアリティショック」まとめはこちら
「無痛分娩についての記事」まとめはこちら