境界線のあれこれ 46  <精神の正常と異常>

月経周期による精神のアップダウンが激しかった時期でも、自分は「精神異常ではない」と思っていました。


今、精神的に安定した状況で毎日を過ごせるようになって、あの時期は異常ではないかもしれないけれど、正常でもなかったのではないかと感じています。


<1980年代までの精神疾患


看護学生時代から、精神科の授業が一番苦手でした。他の疾患は病気になる臓器の存在があって、原因と診断方法、治療方法が明確にされていきます。


ところが、「精神」や「心」とはどこにあるのかということを考え出すとわけがわからなくなり、まるで「宇宙の果てはどのようになっているのか」の答えを考えて深みにはまっていくような恐怖感を感じるのが、苦手な理由でした。


それでも現在の精神疾患の多さに比べると、のどかな時代でした。
分裂病(現在の統合失調症)、うつ・躁鬱病てんかんという三大精神病のうち、てんかんはむしろ内科や脳外科で管理していたので、主に二つの疾患を学びました。


うつ・そううつ病も現在のような「誰もがかかる疾患」という認識はない時代でした。


閉鎖病棟開放病棟での対応の違いはあっても、精神疾患は社会とはかなり距離をおいた疾患と感じられていました。


<1990年代の精神疾患


1990年代になると、学生時代に習ったことの無い精神疾患精神障害名が急激に増えました。


先にリンクしたwikipediaの中で、「精神疾患の分類」に書かれている「神経性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害」や「生理的障害および身体的要因に関連した行動症候群」「成人のパーソナリティおよび行動の障害」などです。


たとえば強迫障害のひとつの手を何度も洗わずにはいられないような方も、それまでもいらっしゃったのだと思います。
三浦綾子氏も自身が、終戦直後の青年期にそうであったことを書かれています。


睡眠障害、あるいは不安障害も精神の異常とは認識されず、正常であるが少し変というぐらいの認識だったのでしょうか。


また、1980年代までは精神疾患の患者さんは社会の中で身近な存在ではなかったのですが、90年代に入るととても身近になりました。


産婦人科に入院する女性の中にも、うつを始め、摂食障害パニック障害、そして境界型人格障害などの精神疾患を持つ方が増えました。


私にとって身近に感じたと印象的だったことは、同僚の看護職に精神疾患を持つスタッフが珍しくなくなったことでした。
あるスタッフは、緊急時や不測の事態がおこると過呼吸を起こすことがありました。あるスタッフは、自身の成育歴の母親との関係が原因で「愛情をもって接してもらっている新生児をみると辛くなる」と職場を離れていきました。


1990年代終わりの頃には、「看護学生の1割に摂食障害の既往がある」という衝撃的な報告がありました。


看護する側にも看護が必要になる時代になったのでした。
ますます精神の正常と異常の境界線があいまいになっていきました。


<2000年代・・・発達障害


自閉症については1980年代にはすでに社会の中にその名前が広がり始めていたと記憶しています。
1980年代後半に、自閉症の学童を対象にしたサマーキャンプに看護要員として参加したこともありますが、まだその原因も対応も手探りの状況でした。


2000年代にはいると自閉症だけでなく、さまざまな発達障害さらには成人の発達障害についての知識が広がり始めました。


産婦人科に勤務していると以前は「上の子が発達障害」ということを耳にするぐらいだったのですが、最近は「もしかするとこの方には説明の方法を変えたほうがよいのか」と思う方が増えました。
もちろん、私たちが勝手に「この人は成人の発達障害」と診断してはいけないので慎重になのですが、話をしただけでは伝わりにくいのかもしれないと思うことがあります。


それを身近に感じるようになったのが、これもまた看護スタッフにもそういう背景の方が増えてきたような印象があるからです。
こちらの教え方が悪いのかと悩み落ち込むこともありましたが、「看護師お悩み相談室にも同じような状況が相談されていますし、「Nurse Manager」(日総研)の2013年10月号には、「このナースもしかして発達障害適応障害?  微妙な境界線を見極め、現場に適応させる」という記事がありました。

しだいに、少しこちらの対応も変えてみるとけっこううまくいくことがわかりました。
相手がいけないのではなく、こちらも一つの対応方法しかできていなかった部分もあることを認めることで、世界が少し開けたようにも思います。


10年前よりもさらに精神の正常と異常の境界線が微妙になったと感じています。


というか、精神とはいったい何かというところで考えがぐるぐると廻っています。




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