助産師の世界と妄想 3  <虚像の助産師が好まれる>

以前勤務していた総合病院でも現在の診療所でも、時々、助産師の中途採用があります。
もちろん、私も施設を移れば中途採用される立場になります。


その時に受け入れ施設側として「この助産師はどの程度仕事ができるか」というポイントは重要です。


それが、「現実の助産師像」ともいえるかもしれません。


<最低、卒後3年程度の臨床経験>


まず履歴書からおおよそのその助産師の能力を見極めることになると思います。


「卒後、少なくとも2〜3年間は同じ総合病院内で臨床経験を積んでいる」
このあたりは重要なポイントではないかと思います。
昨日の記事に書いたように、基礎的な能力を作る時期だからです。


申し訳ないけれど、こちらの記事に書いたような、卒後1〜2年程度しか病院での経験がない方はかなりサポートが必要そうという判断になります。


ただ結婚や出産は予定通りには行かないですし、そういう臨床を早く離れて経験年数が少ない方でもここで何とか頑張って、「周産期医療のレベルについていけるように」という姿勢のある方なら問題ないと思います。


<分娩介助経験数はどれくらいあるか>


昨日紹介した日本看護協会「助産実践能力習熟段階(クリニカルラダー)活用ガイド」(PDF)、12ページにある「助産キャリアパス」という表では、卒後3年で「分娩介助30例以上」を想定しているようです。


中堅の年齢層のスタッフが多く分娩件数もそこそこある診療所や総合病院なら、1年間でも30例ぐらいは軽く経験できることでしょう。
ところが、新卒の多くが就職する周産期センターや規模の大きい総合病院では、3年間で30例の経験もできないことが多いのではないかと推測しています。


3年間で10例程度しか経験できないこともあるようです。新人の年には優先的に分娩介助をさせてもらえるのですが、2年目・3年目になると新人に分娩を譲ることになり、その後もほとんど分娩介助の経験を積むことができない助産師が増えているのかもしれません。


その分娩介助の基本を身につける最初の時期を逸すると、「経験年数は増えるけれど、分娩介助経験は増えない」状態が続き、おそらくお産の場に戻ることは相当怖くなることでしょう。


分娩を取り扱う産科施設では、中途採用助産師であれば少なくとも数十例から100例程度の分娩介助経験が欲しいところです。


現実の臨床では、基本的に「助産師」というのは分娩介助経験がそこそこありお産を一人で任せられる人のことだと認識されているはずです。
あ、ただし医師のいない施設で・・・という意味では決してありません。

<「助産師」の資格と名称が意味するもの>


ところが、助産師の世界自らが、分娩介助経験が無くても助産師と名乗り続けることができる状況を作り出しました。


開業権という言葉で分娩から乳房マッサージへと活路を見出した歴史があるように、分娩に関わっていなくても「助産師」の名称と資格は一生使えるのです。


でも正直なところ、「開業」の経歴は少なくとも私が勤務してきた分娩施設ではほとんど「経験」とは見なしません。
それだけでなく、新人以上にオリエンテーションが大変だろうと思われることでしょう。強い信念がある人たちですから。


それなのに標準的な周産期医療の中では取り入れられることのない代替療法やさまざまな信念をお母さん達に勧めるような人のほうが、「すごいことをしている『助産師』」としてマスメディアに紹介されたり、政治の場に進出していくのは不思議な現象としか私には思えません。


申し訳ないけれど、開業助産師のHPで時々みる「メディアで取り上げられました」という記事に、「虚像の」という言葉が浮かんでしまうのです。




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