助産師の世界と妄想  10 <新生児訪問後に代替療法へ引き込む機会>

たとえ新生児訪問の内容が「標準医療に基づいたもの」と明確にされ、訪問では代替療法のたぐいを勧めることはしないということになっても、それだけではきっと問題は解決しないことでしょう。


なぜなら新生児訪問を機会に知り合ったそのお母さんを、助産師自身の助産所、つまり開業届を出した母乳相談や育児相談の場に引き込むことが可能だからです。


助産師基礎教育テキスト第3巻 周産期における医療の質と安全」(日本看護協会出版会、2009年)の「地域における助産サービス管理の実際」ではある地域の活動が紹介されていて、以下のように書かれています。

また、助産師グループのうち数人は開業しており、開業助産師としての訪問や相談活動を続けている。開業助産師は、新生児訪問等の際、追加での母乳育児支援等が必要と思われる場合に、開業助産師としての有料のサービスについて情報提供をすることを容認されており、多くはないがそのサービスを利用する母親もいる

たとえば、新生児訪問の際に乳腺炎の相談を受けたとします。通常は赤ちゃんの抱き方や飲ませ方のアドバイスで十分解決できる問題ですし、自治体の訪問は無料ですからお母さんに経済的な負担がかかることなく有効なアドバイスをすることが可能です。


ところが、もし乳房マッサージが必要と思い込んでいる助産師が、その訪問の場ですぐにマッサージをしてお母さんにその支払いを求める事はできません。
「機会を改めて、有料の訪問やあるいは助産所に行ってマッサージをする」という母親との契約が必要になります。


さとえさんの新生児訪問の経験の以下の部分も、これに該当すると思います。

私が尿失禁があると助産師さんに話すと、トコちゃんベルトをするように強く勧められました。そしてある助産院で付け方を教わるようにとパンフレットを渡されました

本当に、このような「開業助産師としての有料のサービスについて情報提供をすることを容認されて」いるのでしょうか?



おそらくまだ保健センター側に問題意識がないだけではないかと、私は思っています。


<誰でもできる開業届け>


助産師にとって開業届けを出す事は簡単であることをこちらで書きました。


母乳相談や自宅分娩の出張助産であれば、嘱託医も不要ですし自宅を住所にして1枚の届け出をだせば開業できます。
特別な教育制度もありません。


また病院・診療所に勤務しながら開業届けを出して、母乳相談などをすることも可能です。


私自身も前回の記事で書いた東京都の新生児訪問指導員の講習を受ける際に、保健師さんから開業届けを出す事を勧められたことは「母乳相談の功罪」の記事で書きました。
保健師さんが対応に苦慮するような母乳に悩むお母さんをフォローしてほしいという理由でした。


まあ、どうして母乳に悩んでいるかといえば、開業助産師の乳房マッサージに通い続けてノイローゼ気味になったり、母乳を出す事だけを思い詰めて赤ちゃんの成長が見えなくなったりといった、開業助産師側が作り出した需要でもあったのですが。
それをさらに開業してフォローする、それはおかしいと感じました。


なにより、母乳相談にしてもまだまだ検証もされていないことが多く、自分の経験だけのアドバイスで一回数千円もの相談料を受け取ることはできなかったのでした。
その気持ちは今でもあります。


効果が検証されてもいない代替療法的なものを勧めたり、自分の思い込みや価値観を広めるための開業助産所に通わせるために新生児訪問を利用する。
その実態は調査される必要があるわけで、「容認されている」という認識でいてはいけないのではないかと思います。




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