行間を読む 19 <新生児訪問の心構え>

こちらの記事で、20年ほど前に東京都がまだ新生児訪問指導員のための研修制度があった頃、その研修では「心構え」についても話があったことを書きました。


それよりさらに数年前、私が助産師学生だった時に「訪問の心構え」を恩師から教わった記憶があります。


学生は、かならず継続事例を受け持つ事になっていて、妊娠中から分娩、そして出産後の訪問までを実習させてもらいました。
右も左もわからないような学生が妊婦健診や分娩、そして産後までずっとかかわることを了承してくださった方々に本当に感謝です。
私たちはこうして社会でそだててもらったのだと、改めて思うこのごろです。


無事に分娩介助をさせていただいて、無事に退院をされ、そして産後に訪問をさせていただく頃には、お母さんたちも助産学生を妹か友達のように親近感をもってくださるようでした。


産後の訪問実習の前に授業で学んだことが、その後の自治体の新生児訪問でもしっかりと私の中に残っていました。


<必要な「心構え」とは>


当時のノートは処分したので記憶に頼った内容ですが、以下のようなことを恩師は話されました。


「訪問というのは、相手の生活の場にお邪魔させていただくという気持ちが必要である」
「お茶などの接待は一切受けないこと」
「お礼も一切受け取らないこと」


最後の「お礼」というのは、お母さんたちが「学生さんが側にいてくれて助かった」とお礼の品などを準備していても受け取らないように、ということです。


至極、当たり前のこの3点ですが、とても本質的な部分だと感じたのは、新生児訪問に関心が出始めてからでした。


自主的に退院後のお母さんを訪問していたときも自治体の訪問でも、あらかじめ電話の時点で「訪問時にはお茶等のお気遣いは一切不要です」と話すようにしていましたし、自主的に訪問していた時にも絶対に謝礼のたぐいは受け取らないようにしていました。「自分が勉強させてもらっている方なので」ということで。


都の研修でも、新生児訪問で苦情が来た例などの話がありましたが、やはり上記の姿勢があれば違っていたのではないかと感じる内容でした。


<新生児訪問を受けた側からの評価に関する研究>


新生児訪問の実態についての研究を探していたら、1992(平成4)年の厚生省心身障害研究の「新生児訪問指導に対する保護者からの評価」が公開されていました。


1992年の立川市で実施された訪問でのアンケート調査のようです。


1992年当時は、まだ今ほど百花繚乱の代替療法は広がっておらず、桶谷式乳房マッサージとそれに伴って広がった舌小帯切除ぐらいだったでしょうか。


ですから「マイナスの評価」(p.214)を見ても代替療法などを勧められたといった「変なこと」は書かれていなくて、「古い考え方」や「理想とする子育て」を押し付けられたといった内容でした。


「接遇に関する問題点」(p.215)では、「時間が長かった」「突然の訪問だった」「短時間で聞きたいことも聞けなかった」「もう少し話を聞いて欲しかった」「事務的に終わった」「話が一方的だった」などが書かれています。


このあたりも、実際に訪問にいくと相手のお母さん方もいろいろですから、質問攻めになって2時間位になってしまうこともあれば、こちらがやんわりと何かないか尋ねてもほとんど話さない方もいらっしゃって、半ば一方的に説明をして短時間で帰ることもありました。


それでも、「相手の生活の場にお邪魔させていただいている」という恩師の一言が、いつも蘇ってきて対応方法を考えることができたように思います。



訪問する側とお母さんの相性のようなものもありますから、何となく不満が残ったというものもあるでしょうが、常識的な態度さえ疑われる人がいることも確かではないかと思います。


上記のアンケートにも「玄関でドアをあける前に『どなたですか』と聞いても答えない」とか、「電話してきて名前も名乗らず一方的にしゃべりだした」「道がわからないから迎えに来いといわれた」など、驚くような内容があります。


ただ、1992年当時40代〜80代の助産婦が訪問していたようなので、そういう時代背景もあるのかもしれませんが。


代替療法や価値観・信念を広げないために>



その後、上記のようなアンケート調査が行われたかどうかはわからないのですが、もしあるとすれば、「その他」(p.216)に書かれているようなことが増えているかもしれません。

話はなかなか面白かったが、諸説あるためかとも思うが、病院で聞いたこととくい違っている話もあり、多少とまどった点もあった。


「諸説あるかも」と聞き流してもらえた時代から、世の中全体に代替療法的なものや考えが跋扈している中で、必要もないことにお母さんたちを信じ込ませる機会が増えているのではないかという心配は、開業助産師のHPの内容から考えれば杞憂ではないと思います。


その一方で、お母さんたちのこうした声にも答える必要があります。

顔などに赤いしっしんが出ていて、アトピーか心配だったので質問したけれど”よくわからない”と言われてしまった。

自分が知らなくて「わからない」と認めることは大事です。
標準的な医療の考えを不勉強なのに、代替療法の「知識」を教えるよりはよっぽど誠実な態度かもしれません。


ただ、それではその不安に何も対応していないことになります。


標準的な医療ではどのように対応しているのか、代替療法の考え方で注意が必要あるいはデメリットが大きい考え方は何かなどを知った上で、「現在は『よくわかっていない』こともあるので様子を見てよいのでは」とか「小児科受診をして相談してみたらよいのでは」という対応になるのではないでしょうか。


「諸説」を伝える立場ではなく、「諸説」を中立な立場からメリット・デメリットを説明する立場であることも、訪問の大事な心構えではないかと思います。






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