産後のトラブルを考える 23 <産科医療補償制度の対象を拡大できないか?>

産科医療補償制度が始まってから、出産育児一時金にその掛け金が上乗せされて支払われるようになりました。
「産科医療補償制度の仕組み」に説明されているように、掛け金の3万円は妊婦さんとそのご家族が準備するわけでもなく、また分娩施設の利益になるわけでもなく、健康保険組合から産科医療補償制度へと実質支払われている事になります。


この掛け金が2015年からは16000円に減額されることになったようです。


昨年12月25日に放送されたNHKニュースおはよう日本「子どもの脳性まひ・補償制度の課題」でその経緯がわかりやすく説明されています。

課題に直面しています。
申請者の数が、予想を大きく下回っているのです。
来年(2014年)、申請が締め切られる平成21年生まれの場合、230件ほどしか補償の対象になっていません。

まだ医療機関、家族ともに十分理解されていない部分もあるようです。


「5年間で補償の対象となったのはおよそ650件」とかなり予想を下回り、余剰金が問題になっていることもしばしば報道されていました。


その点に関しては、東京産婦人科医会の「産科医療補償制度 さまざまな疑問・問題点」の4の説明がわかりやすいかもしれません。

どれだけ脳性麻痺が発生するか正確な予測がたてられない、どれだけ掛け金が集まるかわからないという不確実な状況の下での制度設計であるということが一つ、準備段階で医療者でない方からの意見として、あまり高額だと他の障害を持った児の親から差別であるという非難が起こるのではないかという危惧が示されたことなどがあります。
実際に制度が発足して収支が明らかになった段階で見直すことが規約に書かれています。その際、補償金の増額だけでなく、現在は障害の程度が1−2級となっていますが、対象を広げることもありえます。

保険については度素人ですが、これが「大数の法則」であり、不備があれば制度を見直すという科学的な手法といえるのかもしれません。


<「何があったのか知りたい」>


医療事故に遭遇すれば、「何があったのか知りたい」という気持ちが一番先にくるのではないかと思います。


そしてその一番最初の気持ちに対応できないと、次々と医療者とのボタンの掛け違いのように問題が複雑になっていくのではないかと思います。


「何があったのか知りたい」
これは医療従事者側も同じで、言葉を変えれば原因究明と再発防止策です。


冒頭で紹介したNHKニュースの中でも、これまでの補償の対象になったおよそ650件の「すべてについて、細かく原因の分析が行われます」とあります。


産科医療補償制度が始まってから、この制度を取り入れている分娩施設には原因分析と再発防止策が必ず送られてくるようになりましたし、HP上でも一般に公開されています。
その情報が得られるようになったことで、「今までこの方法で大丈夫だったから」という経験則で続けられていたことが見直されるきっかけになりました。


もちろん、すべての脳性麻痺の原因がわかるわけではないので、やり場のないお気持ちを抱えたままの養育者の方々もいらっしゃることでしょう。
でも第三者機関を通して専門家による分析を受けられる機会があることは、「何があったのか知りたい」と直接その医療機関と対峙しなくてはいけなかったことからは大きく前進したのではないかと思います。


<児だけでなく、産婦さんへの補償制度へ>



産科医療補償制度が始まったことは、私個人はとても評価しています。
でもまだ赤ちゃん、しかも脳性麻痺の赤ちゃんという限られた対象です。


是非、今後は出産で障害や健康被害がでた女性にも同様の補償制度を整備して欲しいと思っています。


その女性の経済的救済ももちろんですが、まれにしか遭遇しないような出産がきっかけの障害について、今まで紹介してきたような排泄トラブル等にも広く原因分析をする機会があり、再発防止策や対応策が全国の産科施設に徹底されるシステムが作られやすいからです。


ただ、何事も拙速にならずに少しずつ世の中が良くなるように現実的な対応を重ねて行くことが大事ですね。
上で紹介した東京産婦人科医会にも以下のように書かれています。

理論的・理想的には、すべての医療事故を国の予算で補償するのが良いが、これを実現するためには試算すらできないほどの膨大な予算が必要になる。今回は産科医不足や適正な医療をおこなっても莫大な損害保証金を課せられる矛盾を解決するという社会的な認知の下で、脳性麻痺に限って補償することが認められ、分娩手当金の増額で原資を得ることで、発足する運びとなりました。

みんなの小金も積み重なれば大きな力になり、予期せぬ万が一に対応できるとともに、原因分析の機会があることで社会はより成熟したものになるのではないかと思います。





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