記憶についてのあれこれ 34  <シシトウはいつから辛くなったのか>

先日、一袋に30個ぐらい入ったシシトウがなんと100円で売られていて、嬉々として買って帰りました。


シシトウのあのさわやかな味が好きで、シシトウが安く出回る時期になると山のように食べていました。
ここ数年ぐらいやたらと辛いシシトウにあたる事が多くなり、1パックのうち半分ぐらいが辛いものにあたる事もあって、辛い物好きの私でもシシトウを買うのをためらうようになりました。
それとともに最近、ここ2〜3年ぐらいでしょうか、店頭でシシトウをあまり見かけなくなった気がします。


人間に食べられないようにシシトウの防御機能が働いて辛くなったのかと勝手に考えていましたが、実際のところはどうなのでしょうか。


<シシトウをいつ頃から食べるようになったのか>


1970年代、私が子供の頃はまだシシトウ自体を見た記憶もありません。


1980年頃に、渋谷のボルツというカレー専門店でシシトウに似たグリーンペッパーを見たのですが、「緑色の唐辛子を初めて見た」記憶として残っているので、おそらくその頃にはまだシシトウは流通していなかったのではないかと思います。


ちなみにボルツは本格的なインドカレーの草分け的なお店で、カレーと言えば小麦粉でドロドロにしたルーと福神漬けとらっきょうの付け合わせしか思い浮かばなかった日本人に、本格的なカレー料理を広げることになったお店でした。
そのお店のテーブルには好きなだけ食べてよいピクルス類があって、グリーンペッパーも一緒にテーブルに出されていました。てっきり口直しのピクルスだと思ってかじったところ、火を噴くような辛さでした。


1980年代終わり頃から90年代にかけて、ぼちぼちとシシトウが出回ったように私は記憶しています。
あのグリーンペッパーの悲劇の体験から、しばらくはシシトウの受け入れも慎重だったのですが、いつの間にか大好きになったのでした。
私の中で「緑色の唐辛子は激辛」から「緑色の唐辛子は時々辛いものがある」という認知に変わったのが1990年代で、2000年代になると夏の定番野菜になりました。


シシトウの歴史を探していたら、「野菜の種、いまむかし」にありました。


「甘トウガラシがいつ、どのようにして生まれたのかはっきりわかりません」とあり、以下のようなことが書かれています。

明治44年発行の『農業世界増刊、蔬菜改良案内』では、辛いトウガラシの記述の末尾に「京都付近では主に蔬菜として用う。但し蔬菜用のものは辛味の少なき品種なり」とあり、また元京都府農業試験場長・林義雄が昭和50年に著した『京の野菜』では「田中とうがらしはししとうがらしともいって、唐獅子の口のような格好をしたとうがらしである。明治以前から田中村で作っていたが、辛すぎるものもあって大衆に受けず、おもに料理屋むけに作っていた。(中略)
昭和初期から和歌山県に導入され現在では全国的に産地が広がっている」と記述しています。「伏見甘」は京都にとどまって伝統野菜として成功し、シシトウは全国に広まって大衆化に成功したというわけです。

昭和初期には「野菜」として広がりだしたようですが、都内のスーパーで普通に見かけるようになったのはやはり1990年代のように記憶しています。
関西と関東の違いもあるのかもしれませんね。
流通量の変化などを調べればわかるのでしょうか。


辛さについても興味深いことが書かれています。

引用のように固定品種時代のシシトウや甘トウの中には、ときおり辛いものが出て、種屋へのクレームの原因にもなりました。
本来ナス科ですから、自家受粉性植物のはずですが、訪花昆虫の種類が多いためかトウガラシの他家受粉率は、5〜20%と言われるくらい高く、トマトやナスよりも交雑しやすいようです。また交雑していない甘トウガラシにも、少量のカプサイシンがあるので、高温乾燥や低温で成長が遅れると、果実に含まれる辛味成分の蓄積が多くなり、辛みを感じてしまうことがあるようです。ピーマンも辛味がでたために産地が存亡の危機に陥ったことがあるそうです。(猛暑の2010年は、ピーマンが辛くなったという声がお客様から届きました。暑さでカプサイシンを発現する遺伝子が復活したのかもしれません。2010年9月24日注)

シシトウもそしてピーマンも、野菜を育てて出荷するというのは本当に大変なことですね。


<シシトウが辛くなる原因は?>


wikipediaシシトウガラシには「10個の中に1個ほど辛いものがあり、食べ物のロシアンルーレットと言われている」と書かれていますが、ここ数年は50%ぐらいの的中率ではないかと思うこともありました。


JAグループ福岡のサイトに、「辛いシシトウ 何でできるの?」というわかりやすい説明がありました。

いろいろな説があって、はっきりとした原因はわかっていないけれど、高温、乾燥などのストレスがかかったり、生育日数が長かったりすると辛くなる場合があるよ。(中略)
気温25度以上になると辛味成分が急激に増えるんだって。

シシトウはデリケートな野菜だったのですね。


「ストレスがかかると辛くなるのは防御本能の一つと考えられている」
暑さや乾燥がストレスであって、「人間に食べられてしまう」ことへの防御本能によって辛くなっていたわけではなさそうですね。


来年は、シシトウにストレスのない天候になりますように。


あ、冒頭の30個ほどのシシトウはロシアンルーレットから免れて、すべておいしくいただきました。






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