1990年代初めの頃に「双子の赤ちゃんに同時に母乳を飲ませる」方法を何かの機会に知った時は、「目から鱗的」でした。
授乳時間も短縮できるし、お母さんたちには吉報に違いないと。
今考えると、あれもラ・レーチェ・リーグあたりが出所だったのでしょう。
なぜ「目から鱗」ではなく「目から鱗的」だったかというと、実際に数組の双子の家庭を自主的に訪問した時に、現実的には難しいと感じたからです。
初めてのお母さんであれば、一人の赤ちゃんでも授乳中の抱っこがリラックスできるまでに1ヶ月、2ヶ月とかかります。
同時に抱っこしておっぱいを授乳するなんて、難易度の高い授乳体勢を自分でできる人はまずいないことでしょう。
経産婦さんで双子であれば可能かもしれませんが、上の子の世話もしながら新生児二人を育てるには体力的にも時間的にもミルクが必要になり、目から鱗的な授乳方法のノウハウよりは現実には手伝ってくれるマンパワーが何よりも欲しいのではないかと思います。
そういうわけで双子の赤ちゃんの退院までの支援は、「二人の赤ちゃんに同時におっぱいを吸わせる」ことではなく、家族内のサポートを整えることが中心になりました。
ここ数年ぐらいで、この双子の赤ちゃんの同時授乳とはまた違う「タンデム授乳」という言葉をよく耳にするようになりました。
いろいろなことをしたいと思う方がいるのだな、と少し驚きとともに受け止めています。
まあ私たちもこちらの価値観で判断するのではなく、その選択に対応していくことが求められる時代なのですが。
<タンデム授乳とは>
「母乳育児支援スタンダード」(NPO日本ラクテーション・コンサルタント協会、医学書院、2009年)では「きょうだい同時期授乳(タンデム・ナーシング)」として以下のような説明があります。
1.出産前の援助
出産前に、きょうだい同時期授乳(以下、同時期授乳)について母親の気持ちを聞き、話し合っておくとよい。授乳中の子どもに、次に生まれてくる赤ちゃんについて折に触れて話し、他の授乳中の赤ちゃんを見せたり、入院中のことについて話したりしておくと受け入れやすい。
同時期授乳を考えている場合は、入院中も上の子とも一緒に過ごせる施設を選んだり、入院中に上の子を連れて来てもらったりすることを考慮する。妊娠経過が順調で、特にリスク要因のない場合、条件が整えば医療専門家(助産師など)の立ち会いの下での自宅出産を選ぶ女性もいる。
うーーん、これではタンデム授乳が目的になって、分娩のリスクが過小評価されているような気がするのですが。
<生まれてみないとわからないことへの備え>
経産婦さんの出産は、お産と赤ちゃんの世話については体験済みですが、上の子の変化に新たな試行錯誤が始まり、そこへの不安が大きいのだと思います。
そして上の子を寂しがらせないように、と心を砕くのかもしれません。
ところがお産で入院中に、案外、上の子はあっさり面会から帰ってしまって拍子抜けするどころか、お母さんの方が寂しくて泣いている方もけっこういらっしゃいます。
「○○ちゃんはママのことを忘れちゃったのかしら」と。
あるいは妊娠中にはお母さんのおっぱいに再び関心を示していた上の子なのに、赤ちゃんに授乳をしている側で「吸ってもいいよ」といっても「いらない」とか、ちょっとなめて「まずい」と言われて、これまたお母さんががっかりします。
タンデム授乳が必要と考えていても、上の子は想定外の成長を見せるかもしれません。
タンデム授乳が必要な場合は、全体のどれくらいなのだろうと気になっています。
赤ちゃんが生まれると、上の子の授乳頻度が増えることが多い。同時期授乳をすると、上の子の精神安定や、乳房の張りすぎの抑制、赤ちゃんの吸啜に問題があったりして乳頭に十分な刺激を与えられない場合の分泌維持に役立つ。乳頭の衛生については、ほとんどの場合、特別なことは不要である。
また、「面会についての決まりごと」や「兄・姉からの感染」で書いたように、出産近辺で上の子からの新生児の感染を考えて準備をするのがよいのではないかと思います。
医療従事者は新しい方法を勧めるのであれば、慎重にメリットとデメリット(リスク)を調べてからの方がよいと思うのですが。
「母乳育児という言葉を問い直す」まとめはこちら。