記憶についてのあれこれ 48 <「がん治療を支える手作り帽子」>

先日、NHKのお昼の番組「ひるまえほっと」で「がん治療を支える手作り帽子」を作っていらっしゃる女性を紹介していました。


ここ10年ほどは産科診療所勤務になったので抗がん剤治療を受けている方の看護には携わらなくなりましたが、1980年代初めに看護職になって2000年代半ばまで総合病院で働いていた時に出会った方々のことを思い出しました。


がんそのものからくる痛みや不調にくわえて、がん治療に伴う副作用は生活に大きな影響を与えます。
最近のがんに対する看護については不勉強なのですが、80年代、90年代そして2000年代と多くの経験から改善されたことがたくさんありました。


私が看護師になった頃の教科書や参考書には、がん患者さんの生活を支えるための記述はごくわずかしかなかったことを考えると、隔世の感があります。
まあ1950年代から1960年代の看護の大転換期を経て、国民皆保険下で病院での看護が始まって20年弱の時代だったわけですから、それを考えれば1980年代の看護も捨てたものではなかったとは思います。


1980年代終わり頃に助産師になってからは産婦人科病棟の勤務でしたから、私にとってがん治療を受けている患者さんは女性が対象でした。


その中で副作用の脱毛がご本人にとっては、抗がん剤の治療による不調感を増強させることではないかと思います。
脱毛の程度は個人差がありましたが、私たちにはなす術も慰めの言葉もなくただ見守るしかありませんでした。


かつらを買う方もいらっしゃいましたが、高価なので二の足をふまれる方もいらっしゃいました。
また、いかにもかつらをかぶっている不自然さが嫌という方や素材が合わないなど、ただかつらを使えば良いというものでもないようでした。


バンダナなどをうまく使っておしゃれにされている方もいらっしゃいましたし、思い切ってスキンヘッドや短髪にしている方もいらっしゃいました。


がんの治療中は定期的に入院されるので、だんだんと打ち解けてくると「その髪型似合っていますよ」「そのバンダナすてき!」と言い合えるようになりました。
当時、出会った方々の顔を思い出しながらその番組を見ていました。


最近ではネットで検索すると、脱毛に対しても生活していく人の視点からわかりやすいサイトもあります。

ーがんと向きあってー|抗がん剤・放射線治療と脱毛ケア


この番組で紹介されていた方も、ご自身の体験からかぶり易い帽子とひとりひとりに似合った帽子を作られているそうです。
脱毛が起きる不安に対して、自分に合った帽子をあらかじめ準備できるというのは心強いことだろうと思います。


こうしてご本人にとっては絶望的だったであろうたくさんの経験が集められて、十年、二十年という長さの中で看護の奥行きのようなものができあがるのだと思いました。






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