「体温が上がると『免疫力』が上がる」と聞いただけで、「ああ、あの界隈の話しか」とピンときて眉につばをつける人の方が日本では少ないのでしょうか。
昨日に続き、朝5時台のNHKで先日放送されていた「話題」です。
どこかの小学校の校長先生が始めたことが紹介されていました。
要約するとこんな感じです。(書き留めただけなので不正確な部分があります)
その学校ではインフルエンザで休んだ児童が3分の2ぐらいいた。なんとかしようと考えた校長先生がいろいろと検索したり、医師である弟に相談して子どもたちにインフルエンザに負けない体を作ってもらおうといろいろと試みた。
ひとつは「唾液には細菌などをおさえる働きがある」ので、唾液の分泌を増やすために大きく口を動かす練習をしている。
また全校児童の体温測定をしたところ「36.5℃以下」の児童が多いことがわかり、体温を上げることが「免疫力を上げる」ことになると、いくつかの取り組みを始めた。
その結果、インフルエンザにかかる児童が減少した。
・・・というところで、残念ながら緊急ニュースに切り替わってしまったので、具体的な内容やそれをした効果がどうだったのかはわかりませんでした。
<体温を正確に測れているかどうか>
「『体感』と『データーによる客観化』」の記事で書いたように、30年前は体温計と言えば10分間測定しないと正確に計れない水銀体温計でした。
「検温」の時間は先に全員に体温計を配って脇にはさんでもらい、頃合いを見計らってから病室をまわっていました。
1990年代前後を境に、電子体温計が主流になりました。
それとともに検温が変化しました。
まず患者さんのところにいって電子体温計を渡し、「ピピッ」となる2〜3分(当時はまだ時間がかかっていたような、あいまいな記憶ですが)の間に話しを聞いたり、血圧測定等を同時にして、終わると次の患者さんのところへ行くという順番に変化しました。
測定し直しも簡単になり、検温に費やす時間が大幅に短縮されました。
さらに、最近では10秒程度で測定できる体温計が安価になり、医療機関でも使用している施設が多いかもしれません。
ただし電子体温計というのは予測温で計測するので、体温計の種類によっては測定値に幅がでることがあります。
映像の中で気になったのは、あるメーカーの電子体温計で測定していたことです。私の経験ではあの体温計だと、他のメーカーと比較して0.5℃前後ぐらい低めに測定されることが多いのです。
新生児の場合だと、保育器に入れた方がよいか、湯たんぽなどで保温したほうがよいかなどの判断に大きく影響するので、どちらが「正確な体温に近いのか」といつも悩んでいます。
また、脇の下での測定は、外気温や皮膚の発汗によっても変化します。
寒い季節に登校した直後に測定すれば、低く測定される可能性があります。
冬場に妊婦さんが入院した直後に体温を測定すると、36.0℃以下ということが多いのですが、その後は36℃台後半ぐらいになります。
「子どもの体温が低い」
その基本的なデーターが正確でなければ、「子どもの体温が低いことがインフルエンザにかかりやすくさせる」という仮説そのものの信憑性が得られないのではないかと思いました。
体温計の種類、測定条件などを統一した、「全国の小学生の平均体温」のようなデーターはあるのでしょうか?
<相関関係と因果関係>
インフルエンザの罹患率が減少したことと校長先生の取り組みに因果関係があるかどうかをどのように検証したかまでは、番組では触れていませんでした。
私自身は疫学や統計などについて全く不勉強なのですが、「インフルエンザワクチンをした児童はどれくらいいたか」「予防接種率が増加している可能性はどうか」などのほうが気になりました。
そのあたりの条件が年度によっても同じであれば、もしかしたらこの校長先生の対応にも「効果がある」と認められる余地はあるかもしれません。
でも、もし前年度に比べて児童やその家族の予防接種率が上がっていれば・・・、むしろその効果だといえることでしょう。
<思い込みの次に来ること>
おそらくこの校長先生がたてた仮説から、ご自身で「調べて」到達した対応方法は「体温を1℃上げれば免疫力があがる」あたりではないかと想像しています。
ええ、残念ながら緊急ニュースでそのあとの部分が放送されなかったので、あくまでも想像ですが。
書店にいくとこうした本が「健康」とか「妊娠・出産」のコーナーにたくさんありますが、医療機関に勤務していて「体温を上げることが予防になる」という話しは聞いたことがありません。
こういう公衆衛生の予防策の啓蒙に関しては、「こうしたら効果があった」という個人的体験談のレベルでは無責任な情報になってしまうということが常識になるとよいのですけれど。
「思い込みと妄想」まとめはこちら。