行間を読む 40 <子どもの死に関する情報収集システムの確立に向けて>

2月12日に「乳幼児の事故死、授乳後の窒息が最多」というNHKのニュースがありました。
全文は以下の通りです。

 乳幼児の不慮の事故で亡くなるケースを減らそうと、東京都監察医務院が平成24年までの10年間に、突然亡くなった5歳未満の子どもの死因や経緯を初めて分析した結果、ミルクを飲んだ後に戻して気管を詰まらせるなどの窒息が全体の6割を占め、最も多くなっていることがわかりました。
 東京都監察医務院はミルクを飲ませた後には必ずゲップをさせるなど、改めて注意をするよう呼びかけています。

 事故などで突然亡くなった人たちの死因を調べている東京監察医務院では、東京23区の平成24年までの10年間に扱った、5歳未満の子ども119人の事故死の傾向や経緯を今回、初めて分析しました。
 その結果、死因として最も多かったのが窒息で、全体のおよそ6割に当たる68人に上りました。
このうち、ミルクなどを飲んで寝た後に戻して気管を詰まらせたのが27人と最も多く、次いで大人用の寝具がかぶさって窒息したのが17人となっていました。

 乳児は、ミルクなどと一緒に飲み込んだ空気を吐き出す時に戻すことがあり、げっぷをさせたりすぐに寝かしつけないなどの注意が必要ですが、今回のケースについて保護者から聞き取りしたところ、「子どもが吐き出さないようにげっぷさせた」と答えたのは、2件にとどまっていたということです。
 東京都監察医務院の引地和歌子医師は「赤ちゃんは自分の身を守れない。授乳した後は子どもにげっぷをよくさせるなど改めて注意してほしい」と呼びかけています。
 今回、分析に当たった東京監察医務院の引地和歌子医師によりますと、ミルクなどを飲んだ後、子どもを縦に抱いたうえで背中をさするようにするとげっぷがでやすいとしています。また、寝具がかぶさったり、一緒に寝ていた親に圧迫されてたりして亡くなる事故については、ベビーベッドや軽いベビー用寝具を使うことも重要だと指摘しています。このほか、げっぷが出にくい子に対して、東京助産師会は、寝かせる時に顔を横向きにしてしばらく様子を見ることも事故の防止につながると呼びかけています。


なんだか腑に落ちないニュースだと感じて、もう少し検索してみました。


国立成育医療研究センターパイロットスタディ


国立成育医療研究センターのプレスリリース「子どもの死亡登録検証制度 東京でのパイロットスタディの実施  予防可能な子どもの死を減らす足掛かりに」という資料がありました。
発表された年月日は不明なのですが、「対象調査期間を2011年1月1日〜2011年12月31日とし、対象者調査期間を2012年4月1日〜2014年9月30日とした」とあるので、比較的最近のプレスリリースのようです。


「子どもの死亡事故で最も多い窒息や転落などの不慮の事故を減らすため」「国に死因や事故の状況を登録し、再発防止策に反映する制度を整える」ためとしています。


その「本プレスリリースのポイント」には以下の点があげられています。

東京都内で1年間に発生する0歳〜4歳の小児全死因とそれにまつわる状況を調査。死亡診断書に加えて詳細な情報を収集。またこれらの情報を分析することで、施策による予防策を検討

調査において把握できた予防可能性の高い症例(11症例/全257症例)の内、患者への啓蒙活動を通して予防が可能であったと判断された症例が全体の83%(10症例/全11症例)存在した。


この調査の「考察・まとめ」では、救急対応や受診方法はどうだったかなどを含めて検討した上で、以下のように書かれています。

今回、検討を行った、予防が可能と判断された症例においては、死因は外傷およびその他の外因死が多く、その中でも特に溺水と窒息が多かった。予防方法としては、公共設備、救急搬送耐性および医療体制について、明らかに改善すべき点は挙げられなかった一方、保護者への啓発活動が有用であるとの意見が多く挙げられた。


<小児科学会の「情報収集システムの確立に向けた提言」より>


上記のプレスリリースと同じ頃、2012(平成24)年1月に、日本小児科学会から「子どもの死に関するわが国の情報収集システムの確立に向けた提言書」がありました。


その「はじめに」に以下のように書かれています。

 わが国において、小児の死亡事故の情報源は唯一、死亡小票があるにすぎない。しかしながら、現状はその唯一の情報源ですら、学術的に利用することは困難な状況にある。平成18年度から平成20年度にかけて行われた、厚生労働省厚生労働科学研究補助金 疾病・障害対策分や 子ども家庭総合研究「乳幼児死亡と妊産婦死亡の分析と提言に関する研究」の中で、藤村・渡辺・山中らは、煩雑な各種手続きを行っているが、その経験からわが国の死亡小票を用いたデーター解析には多くの問題があることに気づき、その問題点につき言及している。

実際にわが国で検証された小児の死因統計上、乳児期死亡は諸外国に比し低率である一方、1−4歳児死亡は諸外国に比し高率であることが判明しているが、その詳細な理由については、死亡小票から得られるデーターでは解析不能である。本現象に関し、さまざまな推測がなされているが、真の理由に関しては、小児の死亡事例を学問的な統一定義のもとで、的確な方法で、統計的検討に耐えうる一定以上の数でサーベランスを行わない限り、決して明らかにはならず、それゆえに実効性のある根本対策はなしえない状況にある。


私が看護学生だった30年以上前の小児科学の授業でも、「日本の乳幼児死亡の中で、乳児死亡は諸外国に比べて低いが、1歳以降の事故死が多い」と学んだ記憶があります。
そして事故死の中で「溺死と窒息が多い」ということも相変わらずのようです。


そのあたりの「事実」は統計上明らかだけれども、「真の予防策」をたてるにはまだ全体像の把握もされていないのが現状である。
そのために、子どもの死に関する情報収集システムの確立を目指して動き始めた。


情報が集められ、さらに検証をしていかないかぎり、今の時点では「こうすることが乳幼児の死を減らす事になります」とはいえない段階であるということではないでしょうか。


冒頭のニュースもこの小児科学会の動きと関連しているのだと思いますが、「乳幼児の事故死、授乳後の窒息が最多」は本当なのでしょうか、あるいは「げっぷをさせる」「寝具やベットに気をつける」が対策であるかのように伝えるのは拙速ではないかと感じたのが違和感の正体かもしれません。


もう少し続きます。






「行間を読む」まとめはこちら