帝王切開で生まれる 8 <「帝王切開分娩と腸内細菌叢」より>

引き続き、「周産期医学 特集 帝王切開ー母体と新生児に与えるインパクト」(2010年10月号、東京医学社)の「帝王切開と新生児の腸内細菌」について紹介していきます。


<「帝王切開分娩と腸内細菌叢」>


 帝王切開で出生する新生児は産道を通過するという過程を踏まないために母親のもつ常在菌に汚染されることがない。そのため構成する最近の種類は環境に強く影響されかつ獲得が遅れる。

 Gronlundらは経膣分娩で出生した新生児34名と手術の2時間前に母体に抗菌薬(ABPC)を予防的に投与された後に帝王切開で出生した新生児30名の糞便中の最近の種類を生後6ヶ月まで追跡した。栄養方法に差はなく抗菌剤を投与された児の検体は除外した。帝王切開で出生した新生児ではBifidubacterum属とLactobacillus属の定着が経膣分娩で出生した新生児よりも遅く、同じ構成比率になるまで1ヶ月以上を要した。また、帝王切開で出生した児では日齢が進んでも腸内細菌科細菌が減少しなかった。さらに生後30日でのClostridium perfringsの検出率が経膣分娩で出生した児に比較し有意に高かった。同時に母親に行った調査では対象となった児に腸炎を発症したものはいなかったが帝王切開で出生した児には大腸菌や肺炎換金、Clorstlidium菌が長くとどまることから腸管感染症や尿路感染症発症する可能性が高くなる。Bagerらは、コホート調査を行い細菌性腸炎に罹患したことのある22,486人を対象に帝王切開分娩が細菌性腸炎の発症因子がどうかを検討した。帝王切開による出生が細菌性腸炎のリスクではないと結論づけているが、程度は低いものの5歳未満では発症要因となっていた。
(強調は引用者による)


どうやらこのあたりが「根拠」となって、次の「帝王切開出生児に理想的な腸内細菌叢を定着させるには」に続いているようです。


2010年にこの本を購入してこの箇所を読んだ時には、「なるほど、やはり帝王切開の赤ちゃんの方が腸内細菌叢の定着に時間がかかるのか」と思ってしまいました。


ここに書かれている「帝王切開児」というのはあくまでも「帝王切開術の2時間前に抗菌剤を母体に投与した」ケースのことだと、後で気づきました。



それだけ私自身も、「帝王切開で出生する新生児は産道を通過するという過程を踏まないために母親の持つ常在菌に汚染されることがない。そのため構成する細菌の種類は環境に強く影響され獲得が遅れる」、つまり「正常な腸内細菌叢を得られないリスクが大きいのではないか」という不安があったのではないかと思い返しています。


<分娩前の母体への抗生物質の投与>



上記の論文で引用されている研究というのは、「帝王切開術前の抗生物質の母体投与が新生児に与える影響」について調べたのではないかと、内容からみて思います。


母体に投与した抗生物質胎盤を通して胎児へ移行し、その影響で腸内細菌叢の定着に差が出る可能性がある。


私自身、いくつかの産科施設を経験して、医師の考え方の違いあるいは時代の変化もあるとは思いますが、帝王切開の直前に「母親に抗生物質の点滴を予防的に投与」する施設としない施設がありました。


さて、私自身この引用されている研究の原文を探し出して読むほどの能力がないので、素人のような疑問ですが、この箇所を読んでこんなことを思いつきました。

引用された研究から何か結論を導くとしたら、「帝王切開の術前の抗生物質投与」の是非の部分だけではないか。

「経膣分娩」と「帝王切開」の差を比較するのであれば、経膣分娩の場合でも分娩前に抗生物質が投与されたケース(破水、GBS陽性、母体発熱、あるいは無痛分娩の場合の予防的投与など)で生まれた新生児の腸内細菌叢についても調べる必要があるのではないか。
あるいは帝王切開術前に抗生物質を投与した場合としていない場合の比較も必要ではないか。

「栄養方法に差はなく」というのは具体的にどのような条件なのか。
混合栄養の割合が多ければ、この研究自体では「混合栄養あるいは人工栄養の場合にも、抗生物質を術前投与されても生後1ヶ月でほぼ抗生物質を分娩前に投与されていない経膣分娩の児の腸内細菌叢の構成と同じようになる」という結論にも読み取れるのではないか。

Bagerらのコホート調査の「帝王切開による出生が細菌性腸炎のリスクではない」という結果を見れば、分娩方法の違いによって腸内細菌叢の定着が多少遅れても新生児には大きなリスクはないという理解でよいのではないか。


もうひとつ引用されている「経膣分娩および帝王切開出生児の糞便中のBifidobacterium属の検出率(Gronlundら、1999より)という図を見ると、たしかに生後5日、10日あたりでは経膣分娩で出生した場合に比べて検出率が低いのですが、生後30日になるとほとんど同程度だと読めます。



早産児は別として、現時点で帝王切開で生まれた正期産児の腸内細菌叢の変化とその成長への影響については、まだほとんど目にすることがありません。


わかっていないことが多いのではないでしょうか。
であれば、「早期母子接触、終日母児同室、母乳栄養」は何のために勧められるのでしょうか?