乳児用ミルクのあれこれ 28 <人工栄養と腸内細菌について>

「帝王切開で生まれる」からちょっと横道にそれて、久しぶりの「乳幼児用ミルクのあれこれ」です。


前回の記事までで引用した「帝王切開と新生児の腸内細菌叢」という論文に、「母乳栄養児と人工栄養児における糞便中の菌叢の推移(Yoshiokaら、1983)」という図が載っていました。


1980年代後半に助産師になってからもどこかで目にする図で、「母乳栄養児はビフィズス菌優位だが、人工栄養児は大腸菌優位」という知識の根拠かと思っていました。


この図は、「健康新生児における腸内フローラの形成と栄養法による差異の検討」という論文に掲載されていました。


この論文の「結論」には以下のように書かれています。

1. 母乳栄養児群でも人工栄養群でも、生後最初に腸内フローラの最優勢菌を形成するのは大腸菌群であった。

2. 両群とも生後3日目からビフィズス菌が急増し始め、母乳栄養群では生後5日目以降はビフィズス菌が最優勢のフローラが形成され、ほかの細菌群の菌数は少ない。一方、人工栄養児群では生後6日目でもなお大腸菌群が最優勢であり、生後1ヶ月でビフィズス菌優位となるものの、母乳栄養群の圧倒的なビフィズス菌優位のフローラに比べてその形成は弱い。
(強調は引用者による)


人工栄養だけの児はずっと大腸菌が優位のようなイメージを持っていたのですが、それは私の思い込みだったようです。
差があるとすれば、生後2〜3週間ぐらいまでのようです。


たまに諸事情で赤ちゃんだけをお預かりすることがあり、授乳方法はミルクだけなのですがある時点からはやはり甘酸っぱいうんちの臭いに変化することは感じていました。
人工栄養なのに、このビフィズス菌の臭いはどこから来るのだろうと。


<人工栄養のビフィズス菌に影響するもの>


こちらこちらの記事で紹介した「母乳が足りなくても安心」(二木武・土屋安文・山本良郎氏、ハート出版、平成9年)に、「人工栄養児でも腸内細菌はビフィズス菌が優位」として以下のようなことが書かれていました。


 昔は、母乳栄養児はビフィズス菌優位の腸内細菌叢、人工栄養児は大腸菌優位の腸内細菌叢と言われました。これは、これまでお話してきたことからおわかりでしょうが、人工栄養が牛乳を薄めて使ったことで、減ってしまったエネルギーを補う目的で砂糖やでんぷん分解、あるいは穀粉を加えたことに起因しています。昔のミルクは言ってみれば大人が食する素材からできあがっていたので、腸内細菌叢も大人のそれに近くてなんら不思議ではなかったのです
 その当時も、何とか人工栄養児の腸内菌叢をビフィズス菌優位のものにしようと、いわゆるビフィズス因子といったものが加えられたりしましたが、必ずしも成功したとは言えませんでした。
 しかし最近のミルクでは、乳清淡白質増強タイプになるとともに昔に比べて蛋白質やミネラルの量そのものが著しく低下したために緩衝力も弱くなり、また糖質も乳糖主体になってきたことから、大腸内での発酵が進んで有機酸の産生も活発になり、腸内の酸性度も適度に高まって、母乳栄養児に近い腸内環境がもたらされるようになりました。その結果、ビフィズス菌の数という点では母乳栄養児とまったく変わらない状況が得られるようになり、腸内菌叢としても良好な状態と判断されるようになっています。(p.143、強調は引用者による)


冒頭で紹介した1983年というのは、ちょうど「昔のミルク」から「新調製粉乳」になったあたりの時代のようです。


この「新調製粉乳」について、「母乳が足りなくても安心」の中で以下のように説明されています。

(新)調製粉乳時代 (1979年以降)


 昭和54年の乳等省令改正により、それまでの「調製粉乳」と「特殊調製粉乳」は一本化されて、「調整粉乳」となりました。次いで昭和58年に食品衛生法が改正されて、食品添加物として銅・亜鉛が、「母乳代替品」に限り強化が認められました。
 その後も、タウリン、ビタミンK、n-3系列多価不飽和脂肪酸、いわゆるビフィズス因子としてのオリゴ糖など微量栄養素の強化、ホエー蛋白質の増強と蛋白質の原料、アレルゲン性の低減など、新しい研究成果を取り込んだ改良が重ねられています。

母乳栄養児と人工栄養児の腸内細菌やミルクについては、その研究がどの時代のどのようなミルクを使用していたのかによっても大きく解釈の違いが出るのかもしれませんね。


しばらく「帝王切開で生まれる」から離れますが、乳児用のミルクの歴史がこの本に詳しく書かれていたので紹介したいと思います。




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