入院中のお母さん達に、ベッドでの添い寝授乳や添い寝を説明する際には児の転落と窒息、その2点がまず危険性として思い浮かぶのではないかと思います。
ところが、こちらの記事で「添い寝授乳なら窒息の危険性はない」という認識が産科スタッフにもあることを知り、ちょっと驚きました。
この師長さんの発言を直接その場で聞いたわけではないので、どのようなニュアンスなのかはわかりません。
ただ昨日の記事の最後で書いたように、添い寝授乳に関してリスクマネージメントの視点からの説明がいまだに周産期看護の中ではないくらいなので、あまり危険性が現実的には感じられていないのだろうと、なんとなく日頃から感じています。
ですから、そういうスタッフがいることに「とても驚いた」のではなく、「ちょっと驚いた」のでした。
というのも、いまだに新生児をうつぶせに寝かしたままにするスタッフが後をたたないのもそうですし、出生直後の早期母子接触の危険性よりは「良いことだからしてあげたい」という雰囲気が根強いのも、新生児は簡単には死なないと思い込んでいるのではないかと思います。
<産科医医療補償制度の報告書より>
添い寝授乳のリスクについて検索していたら、「事例番号:270116」の原因分析報告書要約版という産科医療補償制度の事例が公開されていました。
ただ、直接リンクはできないようです。
妊娠経過も分娩経過も特に問題がなく、40週0日に3325gで出生した初産婦さんの赤ちゃんです。
(6)診断等:生後2日目 妊産婦の胸に顔をうずめている児を発見、筋緊張なし、全身蒼白、心肺停止状態、胸骨圧迫、バッグ・マスクによる人工呼吸実施
結果、赤ちゃんは脳性麻痺になったと判断されたようです。
2.脳性麻痺発症の原因
(1) 脳性麻痺発症の原因は、新生児が心肺停止状態に至り低酸素状態となったことであると考える。
(2) 新生児が心肺停止状態に至った原因は、添い寝中の乳房など鼻口部圧迫による窒息の可能性が考えれるが、ATLE(乳幼児突発性危急事態)の概念に相当する可能性も否定できない。
(3) 新生児の心肺停止状態は、生後2日1時過ぎ頃以降2時15分頃までの間に起こったと考えられる。
胸が傷むのは、「生後2日1時過ぎ頃以降2時15分頃までの間」という箇所です。
おそらく、うんちとの闘いで激しく啼いたり、啼いても吸わなかったり、お母さんが疲労困憊しながらあやしていたのではないかと想像がつきます。
そして疲れきった頃、ようやくおっぱいに吸い付いて、お母さんは深い眠りに落ちてしまったのではないかと思います。
赤ちゃんの状態に気づいたお母さんのお気持ちはいかばかりだったことでしょう。
きっと、あと1〜2時間ぐらいで赤ちゃんも母乳便に変化したりして落ち着き、翌日にはもう少し穏やかな夜になっていたのではないかと思います。
「母子同室」だからお母さんが頑張るのが当たり前というスタッフの認識はなかったでしょうか?
激しく啼く赤ちゃんをあやしているお母さんの様子を感じながら、見守っていたでしょうか?
なぜ激しく啼いているのか、そのあとどう変化するのか見通しを立てながらケアしていたでしょうか?
「授乳のテクニック」や「母乳で頑張らせる」ことばかりのケアになっていなかったでしょうか?
「今夜は少し預かるから、お母さんも一旦休んでね。明日にはきっと赤ちゃんも変化しているから」
その一言があれば、この悲劇はなかったのではないかと思えるのです。
「添い寝授乳」が問題というよりも、お母さんだけが新生児を見守る入院中の母子同室というシステムの問題ではないかと。
「新生児のあれこれ」まとめはこちら。