赤ちゃんに優しいとは 4 <「家族中心」とは「自宅のような」の同義語なのか>

「新生児ベーシックケア」(横尾京子氏、医学書院、2011年)の内容について続きます。


なぜこの本をこうして記事について書いているかというと、「『医療を使わない助産』のようなものの幻想と幻滅」の記事の最後に書いたように、1980年代終わりごろに私が助産学校時代の教科書が客観的記述だったと感銘をしていた著者たちの変節のような落胆を、この本にも感じたからです。


日本の助産師教育はどこへ行くのだろう、という大きな不安とでもいうのでしょうか。
そしてそれは本当に、対象とする母子や家族にとって必要なケアなのだろうか、と。



<「家族中心の新生児ケア」とはどういうことなのか>



さて、冒頭でリンクしたこの本の内容紹介を読むと、一見、ごく基本的な新生児看護についての内容に見えます。



ところが、「新生児早期を支える開業助産師」「自宅出産で生まれた新生児:Mさんの体験から」とあります。
ちょっと嫌な予感、と思って読み進めていきました。


さて、「家族中心の新生児ケアの理念」とはどのように書かれているのでしょうか。

 子どもが誕生するということは、単なる生理現象ではなく、社会の最小構成単位である家族の、新たな想像と発展の過程が始まるということである。したがって、ケアの原点は新生児にとどまるのではなく、新生児の親(家族)が自分の子どもを育てていくことができるよう支え、助けることにある。すなわち、家族中心の新生児ケアFamily centered neonatal care ということである。

 Family centered neonatal care:FCCとは、新生児ケアに限られたものではなく、ケア提供者と家族とのパートナーシップを認めるケア理念であり、その基本概念は、尊敬と尊重、情報の共有、家族のケア参加、家族との恊働である。


わかったようなわからないような漠然とした文章なのは、理念とか信条を表したものなので仕方がないかもしれません。


<なぜ自宅分娩をとりあげるのか>


そのあとにすぐ続くのが、「新生児早期を支える開業助産師」というコラムです。
開業助産師の話なのですが助産院ではなく、自宅分娩について書かれています。


 自宅出産は全出産の0.2%、産婦にとって自宅は親しみのある生活の場であるのだが、新生児にしてみればそれは子宮外環境という不慣れな新天地。施設で産まれた新生児同様、子宮外環境に適応していかなければならない。それを支えるのが開業助産師である。

 自宅出産はローリスク妊産婦が適応となるが、リスクや異常が発生しないという保証はない。開業助産師にとって、異常事態の発生を想定した助産体制や卓越した助産師能力を有することは必須である。

そしてある開業助産師の活動を紹介して、ビタミンK2シロップ投与、黄疸チェック、先天性代謝異常検査の実施などをあげて、以下のように結ばれています。

 自宅で出生しても、必要なケアや検査が提供される。その強い味方が開業助産師、自宅という子宮外環境に適応していかなければならない新生児をしっかり支えている。


それらは当然のことではと釈然としないのですが、聴力スクリーニング検査については「希望する場合には最寄りの耳鼻科の受診を勧める」とあり、それはないのではないかと驚きました。
新生児の聴力検査の器械は特殊なので一般の耳鼻科では対応しないでしょうし、何よりも、あえて感染の機会の可能性が高くなるような耳鼻科へ新生児を連れて行くのはどうなのでしょう。


さて、もうひとつ驚きの「自宅分娩」の経験談ですが、それについては次回紹介したいと思います。


「家族中心の新生児ケア」というのは、「自宅で」と同義語なのでしょうか。
助産師教育はどこへいくのでしょうか。




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