新生児のあれこれ 50 <「吸わない」のか「吸えない」のか>

私はヒトの新生児にしか接したことがないのですが、動物の赤ちゃん特集などで観る動物の授乳のシーンを見るたびに、人間の赤ちゃんはなぜこんなに授乳にてこずらせる存在なのだろうと考えてしまいます。


もしかしたら、動物の授乳シーンから私が一方的にイメージしているだけで、動物の世界にもなんらかの理由で「吸えない」「吸わない」赤ちゃんがいて、そして自然淘汰されているのかもしれませんが。


でも私たちの場合には、無事に生まれてきた新生児を「吸わない」「吸えない」からと淘汰させるわけにはいきません。
あれこれと試し、なんとか経口的に授乳できるようにしなければなりません。


とりわけ出生直後の肺呼吸が始まった直後は、「吸う元気もない」ほど呼吸が不安定な新生児なのか、それとも胎便の排泄が始まって、単に「今は吸いたくない」だけなのか、見守るこちらをドキドキさせます。


初期嘔吐などで吸い付こうとしなかった赤ちゃんも、24時間ぐらいを境に「吸いたい」という意欲がでてきます。


ところが、おっぱいを近づけても吸い付かないので、またこちらを不安にさせます。
産後の睡眠不足は覚悟していたけれど、とにかく頑張れば「母乳で育てられる」と思っていたお母さん、特に初産婦さんが授乳がこんなに難しいなんてと自信を失いかけるのがこの時期です。


それでも、生後2〜3日もすると、「吸い方が上手になった」と感じてだいぶ授乳のペースができてきます。
ところが、中には2〜3週間ぐらい直接「吸い付けない」赤ちゃんがいます。


ヒトはそこで「吸えない」赤ちゃんを放棄したりしませんから、なんとか飢えさせないように、あれこれ原因を考えたり対応策を考えます。


新生児の吸い方が問題なので、何か訓練すれば上手になるだろう。
お母さんの乳首が問題で、赤ちゃんが吸い付きにくいのだろう。


だいたい思いつくのはこの2つなのでしょう。


赤ちゃんが「吸えない」のは「哺乳障害」であり、本来吸えるはずだったものが哺乳瓶と人工乳首を使用したために乳頭混乱という言葉が出てきたのもわかるような気がします。


あるいは、お母さんの乳首を見て最初からスタッフのほうが「これは吸えそうにないからなんとかしなければいけない」とさまざまな物を開発してきました。
それはそれで、便利で必要な場合もあります。


でも、上記の二つの理由では忘れられていることがあります。
新生児や赤ちゃんも「吸わない」時があるのだ、ということを。


さて、こちらのOKEIさんのコメントでこんな質問がありました。


ところで、ふぃっしゅさんに教えていただきたいことがあります。扁平乳頭はアメリカの書物には、哺乳の障害になるとは書いてなくて、日本の助産婦さんほど問題にされていないようです。私もあれだけ発生頻度の高い扁平乳頭が哺乳障害の原因になるとは思えないのです。舌小帯切除が桶谷式の通過儀礼となっていました。現実には舌小帯切除の必要はほとんどありません。今、扁平乳頭のママたちは、直接母乳と搾乳と人工乳の三種混合栄養をし、ブレストシールド、ニップルなど、直接授乳を妨げるような器具を使う指導を助産師さんに受けているように思います。
ふぃっしゅさんはどう思われますか?私は桶谷さんの舌小帯切除同様、扁平乳頭即授乳障害と考える必要はないのではないかと思えるのです。

なかなか吸い付かない赤ちゃんにどうするかについては、私自身の対応法を「簡単なことを難しくしてしまっているのではないか」に書きました。


搾乳はお母さんの心身の負担にもなるので、最近では、産後3日頃からはニップルシールドも併用しながら、産後(生後)2〜3週間目を目安に直接授乳にもっていくという方法にしています。



ただ、OKEIさんの質問への答えはそれだけでは不十分だと思います。
アメリカと日本の違いはどこからくるのか。
そのあたりも考えるとおもしろい点だと思います。


そして何よりも大事なのは、赤ちゃんも「吸わない」状態があることに気づかない限り、また授乳のテクニックの話が繰り返されてしまうのではないかと。


それは「退院後のフォローがあればできるのか3」のコメント欄にいただいた、お母さん達の悲壮な叫びをまた繰り返させるだけなのではないかと思います。


どうしたらよいか。
OKEIさんの質問から新たな記事を考えていますが、その前にしばらく過去記事のまとめが続きます。




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