「吸わない」のか「吸えない」のか 1  <アメリカの授乳指導>

しばらく「母乳」や「授乳」関連のまとめが続きましたが、こちらの記事でお約束したOKEIさんのご質問についていろいろと考えてみたいと思います。


そのご質問を再掲します。

ところで、ふぃっしゅさんに教えていただきたいことがあります。扁平乳頭はアメリカの書物には、哺乳の障害になるとは書いてなくて、日本の助産婦さんほど問題にされていないようです。私もあれだけ発生頻度の高い扁平乳頭が哺乳障害の原因なるとは思えないのです。舌小帯切除が桶谷式の通過儀礼となっていました。現実には舌小帯切除の必要はほとんどありません。今、扁平乳頭のママたちは、直接授乳と搾乳と人工乳の三種混合栄養をし、ブレストシールド、ニップルなど、直接授乳を妨げるような器具を使う指導を助産師さんに受けているように思います。
ふぃっしゅさんは、どう思われますか?私は桶谷さんの舌小帯切除切除同様、扁平乳頭即授乳障害と考える必要はないのではないかと思えるのです。


結論めいたことを先に書くと、私自身は乳首の形や大きさが問題ではなく、乳輪から乳頭までが柔らかく伸展性があるかということと、深い吸啜をしたいタイミングが出てくる時期の赤ちゃん側の個人差、そして初産か経産か、の3点ではないかと思っています。


産科スタッフは、「乳房と乳首のタイプ」の分類を教科書的に学びます。


扁平乳頭や陥没乳頭、あるいは乳首が少し大きいと、「これでは無理そう」と思い込んでしまいやすいようです。
ところが、出産直後に吸いたそうな様子をしている赤ちゃんは、乳首がほとんど突出していないおっぱいでも、まるで吸盤のように「吸い付いて」乳首を舌で巻き込んでいきます。


形や大きさではないのだと、そこで気づけば授乳への説明方法もまた変化するのではないかと思うのですが、そのあたりのテクニック的な話はおいおい書いていきたいと思います。



アメリカで扁平乳頭が問題にならなかったのはなぜか>



今日は、OKEIさんのご質問の中で、「扁平乳頭はアメリカの書物には、哺乳の障害になるとは書いてなくて」という部分について考えてみます。


私自身は、アメリカの授乳方法についての詳細な資料を読んだこともないのですが、別の視点からのあくまでも想像です。


「母親の英知 母乳哺育の医療人類学」(ダナ・ラファエル氏、医学書院、1991年)の中に、「当時の典型的なアメリカ人であった私は、この分野に関して何も考えたこともなければ、本を読んだこともなく、アメリカで母乳で育てている人を一人も知りませんでした」と書かれていたことをこちらで紹介しました。
1970年代初めあたりのアメリカです。


この事実を裏付ける統計はないか探したのですが、ほとんど見つかりませんでした。


唯一、north-poleさんという産婦人科医のブログに、「アメリカにおける母乳育児への取り組み」を翻訳したサイトが紹介されています。
孫引きですが、その一部を引用します。

アメリカでは1950〜70年に(混合栄養も含めた)母乳哺育率が出生直後で30%未満、6生月で10%未満という状態でした。粉ミルク会社が販売促進のため産婦人科内で試供品を配布する習慣が浸透したこともあって、1970年代には母乳育児の比率が25%まで落ち込みました。

後半の乳業会社のサンプル配布が母乳哺育率を下げたかどうかは、統計を恣意的に使うことで因果関係があるとすることのように見えます。
サンプルをもらったからといって、急にお母さんたちが母乳をあげなくなるとは常識的には考えづらいと思いますね。


それはさておき、70年代のアメリカでは「混合栄養も含めた母乳哺育率が出生直後で30%未満」だったとすれば、「扁平乳頭が哺乳障害ととらえられてない」のではなくおそらく50年代以降、「なかなか吸い付かない赤ちゃん」は早々にミルクに切り替えていたのではないかと想像しています。


そして、そのアメリカでそれまでの時代の反動のように母乳育児を広げようという空気が広がった時に、乳頭トラブルはどのように対応されていたか。


それはこちらの記事で紹介したこんな励ましがあったのかもしれません。

あきらめてはならない
2日たっても、2週間たっても2ヶ月たってもあきらめてはならない。もし乳首が痛くなったら、出血や裂傷を引き起こす前に助けを求めなさい。


おそらく、あきらめずに吸わせようとしているうちに、生後2〜3週間ぐらいで自然と乳輪や乳頭も柔らかくなり、そして赤ちゃんも深い吸い方が増えてなんとかなっていったのではないでしょうか。


乳頭混乱や哺乳障害という言葉で、「直接吸えなくなるから」と哺乳瓶や保護器の使用を弊害のように説明しなくてもよいのではないかと思います。


アメリカの母乳哺育率が30%未満になって、母乳を吸わせる為の経験知がうまく伝わらなくなった時代のつけとして、「母乳だけを吸わせるためのテクニック」が反動のように受け入れられて行った可能性があります。


では、同じ頃日本ではどうだったのか。
不定期になりますが、少しずつ考えてみたいと思います。





「新生児の『吸う』ことや『哺乳瓶』に関する記事のまとめ」はこちら