事実とは何か 6  <どの当事者になるか>

天然痘と予防接種である種痘について、あらためてほとんど私は何も知らなかったと感じながら、昨日の記事を書きました。


予防接種には副反応の問題が必ず起こるのですが、種痘の副反応については全く記憶になくて、今回、「種痘後脳炎」という言葉を初めて知りました。



Wikipedia種痘には、以下のように説明されています。

種痘は天然痘の撲滅に貢献した。だが、種痘後脳炎を起こす事例が頻発し、「種痘後脳炎」と呼ばれるようになった。1940年代後半には医師の間では広く知られるようになっており、その被害規模は無視できない数にのぼり、1947年と1948年の強力痘苗だけに限定しても、犠牲者はおよそ600人と推計されており、天然痘のこの2年間の患者数を越えてしまっていた。医原病である。

さらに犠牲者のほとんどは乳幼児であり、子供を失ったり、脳の正常な機能は失われてしまい障碍者となってしまった子供をかかえた被害者は、接種を強制した日本の行政から何ら援助も保障も提供されなかった。

1970年に、北海道小樽市の種痘後脳炎被害者が日本の行政機関を相手取り、損害賠償の訴訟を起こした。同時期に立ち上がった「全国予防接種事故防止推進会」の精力的な活動も幸いして、「種痘禍」は報道機関でも取り上げられ、その実態が広く国民に知られるようになった。1972年の夏ごろに種痘接種は全国的に中止され、同時に個別接種方式の導入と接種年齢見直しが図られた。

この説明文は一見、事実を淡々と書いているのですが、「副反応」よりも「医原病」というとらえ方の視点で筆者が書いたものなのかもしれません。


感染症の恐さをどのように想像するか>


小児感染症の恐さを日々感じなくて済むようになった日本ですが、私自身は途上国で予防接種プログラムに従事していても、なかなか感染症に対するリアルな恐さは体験したこともありませんでした。


そんな私の意識を変えたことのひとつに、教科書の行間を読めるようになってくださいと教えてくださった感染症の先生の授業でした。


一つの感染症を制御しても、また新たな感染症が出てくる。
私たちにわかっているのは、何百万と存在する細菌やウイルスのほんの一部にすぎない。
そんなことも話してくださいました。


そしてその後、たしかに胎児や新生児の感染症が次々と明らかにされる時代になりました。


母から子への垂直感染だけでなく、こちらの記事に書いたように、予防接種でコントロール可能なはずの麻疹が流行して妊婦さんへの水平感染を経験したことは、「こんなにこわいことが起こるのか」ということのひとつです。


でも、その恐い感染症から身を護るための予防接種で重篤な副反応を起こしたり、死亡したらということを考えると、それもまた恐いと感じることもわかります。
冒頭で引用したWikipediaの文章を読んで、「種痘は天然痘撲滅に貢献した」ことよりは「ひどい予防接種の制度だった」という印象になってしまう人もいることでしょう。



医療従事者として疾患を学び、公衆衛生や予防接種の重要性を学んでも、自分自身や家族がその副反応にあたったらどういう感情と判断になるかはその状況になってみないとわかりません。


予防接種がなくてその病気になり障害や死ぬことと、予防接種で障害や死ぬ可能性と、当事者になってみないとわからない大きな不安の感情で揺れることでしょう。



でも、その感情の揺れを少しでも小さくできれば、同じ状況でも違う受け止め方になる可能性があります。


日頃から、さまざまな立場から見た事実に触れて想像力を鍛えておくことで、感情の揺れは小さくできるかもしれません。
できるだけ、自分とは違う立場の当事者の視点からとらえた事実とでもいうのでしょうか。



もう少し種痘の話が続きます。




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