数字のあれこれ 2 <数字で表現する>

なぜ数字について書いてみたくなったかというと、どの当事者になるかで引用したWikipedia種痘後脳炎の以下の箇所からでした。


(前略)その被害規模は無視できない数にのぼり、1947年と1948年の強力痘苗だけに限定しても、犠牲者はおよそ600人と推計されており、天然痘のこの2年間の患者数405人を越えてしまっていた。


一見、数字のデーターをもとにした客観的な文章なのですが、この文章を読んで不安が大きく残るだけの人もいるのではないかと感じました。


「無視できない数」という一見数字を表しているようで、これは数字ではなく危機感を表現したいために使ったのではないかと思います。


また「犠牲者はおよそ600人」「2年間の患者数405人を越えてしまった」は、引き算をしてなんとなく「患者数よりも犠牲者のほうが200人も多い」という印象が残ります。


ですからこの文章を書かれた方は、「医原病としての種痘後脳炎に対する批判」という目的を持ってこの文章を書かれたのだろうと思いました。


それがいけないとか間違っているということではなく、医療に関しての数とか量に関する受け止め方の違いを日々の仕事の中でも感じることがあります。
そしてその違いはどこから出てくるのだろう、としばしば戸惑うこともあります。


それで、数字で表現した事象について書いてみたくなったのでした。



<数字に表現することに不慣れ>



産科病棟では、夜間休日を問わず、「破水した」「お腹が張る」「陣痛がきた」「出血した」などの緊急の電話が頻繁にかかってきます。


妊娠週数や状態によってはすぐに来院してもらうかどうかの判断をする必要がありますから、電話口で症状を確認しますが、だいたいはこんなやりとりになってしまいます。


Q「どのくらいの間隔で張っていますか?痛みはどれくらい続きますか?」
A「けっこう張ります。長く張っています」
Q「『けっこう』だとわからないので、だいたいでいいので『何分間隔』とか、何秒ぐらい続くとか数字で表現できますか?」
A「・・・・。痛くてわかりません」「時計はみていませんでした」



Q「どのくらい出血しましたか?」
A「とてもたくさんです」
Q「『とても』だとわからないので、具体的にどれくらいの量がでましたか?たとえば何センチ×何センチぐらいとか」
A「生理の多いときぐらいです」
Q「生理の出血量は個人差があるので、具体的に数字で表現してもらえるとわかるのですが」
A「あーそうですよね。どれくらいだろう。けっこうドバッとでた感じ」
Q「・・・。なのでもう少し具体的に・・・」


たぶん、電話の向こうでは問い合わせをしなければ行けない状況に軽いパニックになっているのでしかたがないのですが、「ああ、数字で表現してくれたらな」と思う電話が結構あります。


ただ、このあたりは症状についても数字のデーターに置きかえられるものは数字で考えている医療従事者と、症状を気持ちで捉える患者さんや妊婦さんとの差なのだろうと思っています。


そうそう、私も「頻繁」とか「結構」とか書いていますが、このあたりはデーターにしにくいのですが、産科勤務のスタッフならなんとなくその頻度を共有できるかもしれませんね。



そんなことを考えながら、冒頭の種痘後脳炎の副反応の頻度についてもう少し続きます。






「数字のあれこれ」まとめはこちら