新生児のあれこれ 51  <出生直後から飲ませることはむずかしい>

出生直後の新生児の低血糖が注目されて、哺乳瓶で糖水やミルクを補足することも大事であるという認識が再び見直される風潮が起こるのは、それはそれで新生児には朗報かもしれません。


ただ、反動のようにまた「規則的に飲ませなければいけない」「3時間以上授乳間隔を空けてはいけない」が強くなることも危惧しています。


何故か。
いやあ、新生児に「飲ませる」ことは簡単そうで簡単ではないからです、本当に。


<初期嘔吐と補足のタイミング>


たとえば、「出生当日から8回以上、母乳を吸わせれば」と簡単に書かれても、出生当日の新生児は頑として口を開けないこともあるからです。
まして、飲むどころかゲボッと吐いたり胎便を出したり、泣いているからとおっぱいを近づけてもかたくなに拒否されます。


低血糖への不安」が広がると、口をこじ開けてでも「飲ませなければ」と哺乳瓶で補足するスタッフが増えることでしょう。
そしてちょっと飲んだと喜んでいると、そのそばから吐くのが新生児。


でも低血糖にさせないようにと、ぐいぐいと哺乳瓶の乳首を口に入れようとすることでしょう。
新生児にもちゃんとペース(法則性)があるらしいことは見えなくなって。


こうした出生当日の「飲まない、吸わない」赤ちゃんへの私の対応はこんな感じ。

ギャーっと泣き始めたら、まず抱っこする。
2〜3分ぐらいでピタッと泣き止んで、ゲフッとし(ここが寝かせていれば嘔吐になるタイミング)そのあといきむようなしぐさがあって、ちょっとリラックスする。
しばらくすると口がハフハフし始めるので、そこで直母(母乳の直接授乳)か哺乳ビン授乳を試す。
そのタイミングでも飲まない時には無理強いしないで待つ。
そのうちに胎便が出始めて、2〜3回出ると、哺乳意欲が出てくるのでそこまで待つ。


でも、「出生直後から頻繁に吸わせなければ母乳が出ない」と信じているスタッフは、なんとしてもギャン泣きする赤ちゃんをおっぱいに吸い付かせようとします。


あるいは未だに「3時間以内の授乳」を強く信じているスタッフには、「授乳間隔が空いている」ことが許せないようで、わかってもらえない方法のようです。


新生児にもいろいろと事情があると思うのですけれどね。


ただ、一見元気で、低血糖のリスクのないはずの新生児が低血糖になっていることもたまにあるので、「どこまで待つか、飲ませるか」の判断は本当に難しいです。
「なんとなく気になるから」という勘が頼りといった感じ。




<「生後数時間からの哺乳開始」>


反対に、出生直後から大泣きして、おっぱいは受け付けないけれど哺乳瓶なら飲む赤ちゃんがいます。


「哺乳瓶に慣れてしまうのでは」と不安にさせますし、生後すぐから哺乳瓶で何かを飲ませることは習ったことがないスタッフがほとんどなので「大丈夫か?」と心配になるかもしれません。


たとえば、前回引用した記事にこのように書かれています。

関西医科大学病院では、母乳分泌が十分でない時、新生児の呼吸が確立し、水分を飲めるようになる生後6〜9時間をめどに糖水補給を始める

自律授乳という言葉が広がった1980年代から、「出生直後から新生児および母親の一般状態がよく、新生児に吸啜反射がみられれば、なるべく早期に母乳を吸啜させてよい」(1980年代の助産の教科書)とあるように、母乳なら出生後すぐから吸わせるようになりました。


ところが、哺乳瓶で糖水やミルクを補足する開始時間は、あいかわらず「生後6〜9時間経過してから」という方法が残っている印象です。


私も以前は、あまり早くから哺乳瓶で補足してはいけないと思い込んでいて、激しく泣く赤ちゃんを抱っこして落ち着かせるしかありませんでした。


そのうちに、こちらの記事の「疑問2」に書いたように、出生直後から激しく啼く赤ちゃんは早いうちからいきんだり胎便がでている印象を持ちました。


そしてそういう赤ちゃんに生後1時間ぐらいでも哺乳瓶で補足すると、けっこうグイグイと飲みます。
そして盛大にゲフッとして、また1時間ぐらいまどろんで、またギャン泣きして哺乳瓶で飲んでと繰り返していると、数時間ぐらいのうちに人生最初のうんちが出て、深い眠りに入ることもあります。


あ、これを待っていたのかも、と。


ゲフッはただ空気を出したのではなく、うんちを送り出す胃結腸反射なのでしょう。


出生直後からうんちとの闘いに入っている赤ちゃんは、おっぱいは吸わなくても、けっこう早くから哺乳瓶でも飲むのかもしれない。
だから、生後何時間とか決める必要はないのかもしれない。
そんな印象です。


生後1時間ぐらいから1時間おきとかに飲ませたら「飲ませ過ぎ」になるのでは、と心配されるかもしれません。
大丈夫。一度にたくさん飲まないことがほとんどですし、ウンチがある程度出てお腹が動き終わると数時間とか眠って、一日の中で考えればそれほど飲み過ぎてはいないようです。


そして新生児が最初に口にしたものが哺乳瓶の乳首であっても、そのあとちゃんとおっぱいも吸うようになるので、あまり脅かす必要もないのではないかと思います。





出生当日の赤ちゃんの生活を考えたあやし方や授乳、そして異常の発見って、本当に答えがなくてむずかしいとつくづく思うこのごろです。




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