周産期看護の中では、未だに「母子同室」に関する看護基準や手順が書かれたものがありません。
あるいは母子同室に関してのリスクマネージメントについても、全国の分娩施設でヒヤリしたことやインシデントが集められて、各施設にその注意点がフィードバックされるようなシステムもありません。
「母子同室」の定義は何だろうと疑問に思っても、推測するしかない段階です。
ただひとつ言えるのは、「お母さんと赤ちゃんと他の人の手」があった時代の「お母さんと赤ちゃんが一緒にいる」状態とは似て非なるものだろうということです。
母子同室に関して、かなりのページ数をさいた本があります。
日本ラクテーション・コンサルタント協会から出された「母乳育児支援スタンダード」(医学書院、2009年)です。
ただ、そこを読んでも「母子同室とは何か」具体的に指し示したものはありません。
「母子同室をスムーズに実行するために」(p.171)に、以下のように書かれています。
「母乳育児を成功させるための10か条」の第7条では、出産直後からの終日母子同室を勧めている。
ところが、日本では一般的に、出産直後からの終日母子同室は、まだ受け入れられにくい現状もあるようである。また、母子同室といっても、分娩後数日経ってから同室を始めていたり、日中の数時間だけ母子が一緒に過ごしたりという部分的な母子同室をとっている場合も多い。
この部分を読むと、「母子同室」というのはあくまでも出生直後から24時間母親と児が一緒にいることをさしているようです。
その目的は「母乳育児成功」にあり、このような文章が続いています。
実際に、分娩後穏やかで温かい雰囲気の中で早期接触が行われ、母親と児のきずなが強化されることで母親は幸福感や達成感をより強く感じやすい。そうすれば、母親と児が離れることなく一緒にいる母子同室は、自然なことであり、当たり前のように感じられるだろう。
答えが先にあるようです。
早期接触をしなかったり、母乳育児や母子同室をしなかった状況は不自然なことだったのでしょうか?
出産直後から半日ぐらいは、特に初産婦さんの場合にはトイレに歩くだけで意識を失ったりすることはしばしば体験します。
意識を失わなくても、傷や後陣痛の痛みで動くのがやっとという方もけっこうな割合でいます。
なぜそういう現実とはかけ離れた、「出産直後からの母子同室」になってしまうのでしょうか?
産後最初の1日、いえ数日ぐらい、状況によっては預かりながら赤ちゃんの世話に慣れて行くことで、無事に退院して赤ちゃんとの生活に入っていけた方もたくさんいらっしゃいます。
でも「A(母乳育児)のためにはB(母子同室)が必要条件」と強く思い込むスタッフが、先に増えてしまったのかもしれません。
でも私たちはA(母乳育児)のためにお母さんと赤ちゃんをケアしているのではなく、C(全てのお母さんと赤ちゃん)が退院後の生活へと順調に移れるようにサポートすることが目的のはずですね。
B(母子同室)はそのための方法の一つにすぎないのです。
そこを取り違えているから、いつまでたっても、「母子同室」に関する定義も標準化もされないのは、現実を見ていないからだといえるのではないでしょうか。
「母子同室という言葉を問い直す」まとめはこちら。