観察する 8 <荒乳というとらえ方と胎便の変化>

科学的に検証された初乳の知識を容易に手に入れることができる人にとっては、初乳を荒乳として捨てていたのはなんと知識がないことによる残念な方法だったと感じるかもしれません。


「だから途上国の人は」という視線が、1970年代に母乳育児推進の原動力になったのでしょう。


「初乳は大事なものであることを啓蒙しなければならない」「そのためには出生直後から母乳を吸わせ、24時間いつでも赤ちゃんが欲しいときに欲しいだけ吸わせることが大事」。
それが「母乳育児成功のための10か条」として、世界中に広められていきました。


でも本当に、途上国のそうした風習は誤った方法だったのでしょうか?


何よりもどうやって、「荒乳は飲ませない方がよい」という考え方にたどりついたのか。
とても興味深いものです。


むしろ、新生児をよく観察していたからこそ、そういう方法が編み出されたのだろうと想像しています。


<胎便から母乳便に変化するまで>


経産婦さんと話をしていて驚くことは、本当に前の出産や育児のことを忘れてしまうものなのだということです。


こちらの記事にまとめたように、生後2〜3日までの新生児というのはなかなかおっぱいに吸い付かない、眠らない、激しく泣くと3拍子そろってお母さんを手こずらせます。そしてその時期の初乳はごくわずかですし、最初の3日ぐらい全く出ない人も珍しくはありません。


ようやく3日目あたりから、母乳も出始めて、赤ちゃんも落ち着いて吸い始めたりします。
初日から十分に母乳が出て、最初から赤ちゃんがぐんぐんと吸っているということ自体があり得ないのです。


ところが、「上の子はもっと最初からよく飲んでおとなしかった」と、この手こずる生後2〜3日の赤ちゃんを前にしておっしゃるお母さんが結構います。


「えーー。それはこの時期にこうだったことを忘れてしまったのですよ。どんな赤ちゃんでも必ず、このうんちの闘いの時期を過ぎてから次の段階に入るのですからね」と説明するのですが、本当に思い出せないようです。


日本も半世紀以上前であれば、まだ出産経験が数回以上ある人が多かったでしょうから、この生後2〜3日ごろまで、ぐずったり激しく泣く割にはおっぱいに吸い付かないことと、同じ頃にうんちが胎便から甘酸っぱい臭いのウンチへと日々変化していたことを体験として多く持っていたことでしょう。


「胎便から母乳便に変わるまで、赤ちゃんがぐずったり激しく泣いて、調子が悪そうに見える」
「母乳便に変わる頃、劇的に穏やかになる」
「母乳便に変わる頃、母乳もちょうど出始める」


「そうだ、早く胎便を排泄させれば、この時期を早く終わらせるのではないか」


観察から、そういう仮説になったのではないかと想像しています。
それでヒマシ油や薬草を煎じて飲ませる方法が取り入れられた。


観察は鋭かったけれど、残念ながら、その仮説を検証する機会がないままに風習としてひろがったのではないかと。



それは「途上国」や「昔」に限らず、現代の私たちの身の回りにもいっぱいありますね。



もう少し、荒乳について続きます。





「観察する」まとめはこちら