助産師の世界と妄想 22 <どのような医療を想定しているのか>

全国助産師教育協議会のニュースレターを読んで、これを書いている方はどのような周産期医療を思い描いているのだろうと思いました。


助産師教育の将来ビジョンに役割拡大を」の中で、ICM(国際助産師連盟)の「必須能力」が書かれています。

 ICMの必須能力では、助産師は超音波、縫合はもちろん、ショックの特定と管理、胎盤用手剥離等の救急処置、そのほかに膣スメアも必須能力の1つである。


これをすべて助産師がこなす医療圏はどんなところなのでしょうか。
ちょっと思いつかないのですけれど。



「医師のいない場」で出産の主導権を持ちたいのでしょうか?


世界にはさまざまなレベルの周産期医療があるのですが、中央アフリカのように新卒助産師が逆子分娩まで扱うのであれば、救急処置は必須かもしれません。


でも、医師のいる病院にさえアクセスできない経済状況の国々で、聴音波検査の医療機器と安定した電力があるとは思えないですし、ましてや膣スメア検査なんて優先度が低いことでしょう。


「ショックの特定と管理」に至っては、検査・治療と救命救急の重層的な医療システムがなければ、目の前で産婦さんの顔は土色になっていくことでしょう。
こちらの記事の最後で紹介した、アフリカのTBA(伝統的産婆)の言葉が許される社会なら可能ですが、日本では到底受け入れられないことでしょう。

60年やっているけれど、自分が扱った妊婦サンは、ひとりも亡くなっていないとおっしゃった。よくよく聞くと、亡くなったのは神の思し召しで、自分のかかわりではなかったそうだ。

アルメニアのような医療であれば、医師が常時いるわけですから、超音波検査も膣スメアも医師の業務でよいのではないかと思います。


北欧の国では、膣スメアーの検体採取やピルの処方も助産師の仕事になっている国もあるらしいのですが、おそらく分娩が高度に集約されているので、助産師といっても分娩介助からは遠ざかる人も多いことでしょう。
助産師を活用せよ」という中で、今の日本の病院では助産師らしい仕事に配置されず、看護師として働いていると主張しているのと同じ状況ですね。



このICMの必須能力が役立つ医療が現実にどのような状況なのか、今ひとつ想像できずにいます。


まあ、「ICMは出産を迎える一人一人が、新生児と共に助産師のケアを受けられる世界を目指す」というビジョンそのものが、あまり現実的ではないのですけれどね。


助産師のケアによるかどうかよりも、できる限り安全な出産場所で一人一人に必要なケアが受けられる社会のほうが良いと思います。




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