目から鱗 10 <水にありがとう>

どのテレビ局か忘れたのですが、リオオリンピックのテーマ曲が「ありがとう」でした。


競泳のシーンとともに字幕に「テーマ曲『ありがとう』」と出たのを見て、「水」と「ありがとう」が結びついて私の気持ちはあっち側へ行ってしまったのでした。


水からの伝言」という世界があることを知ったのも、2009年にkikulogに出会ったことがきっかけでした。
助産師の世界にホメオパシーが広がっていることも驚きでしたが、学校教育で「水にありがとうと聞かせる」ことが広がっていることに、世の中はどうしちゃったのだろうと不気味さを感じたのでした。


水からの伝言」は、「ニセ科学とつきあうために」の「6 水の結晶を考える」に説明があります。

 この「波動」から派生して、最近注目を集めているニセ科学に『水からの伝言』があります。これは、江本勝という人が出版した一冊の写真集に端を発したもので、その写真集には、雪のような樹枝状に成長した水の結晶の写真がたくさん収められていました。それだけなら、なんら驚くべきことではありません。ご承知のとおり、水が樹枝状に気相成長する条件については中谷宇吉郎が実験で明らかにしています。問題の写真は明らかに気相成長でできた結晶を撮影したものなので、基本的には中谷の結果で説明できるはずです。

 ところが、江本氏の主張は奇妙きわまりないものでした。凍らせる前の水に「ありがとう」という文字をみせる(水の入った容器に文字を書いた紙を貼り、文字どおり「見せ」ます)と雪花状の結晶ができ、「ばかやろう」という文字を見せるとそのような結晶ができないというのです。そのふたつの言葉に限らず、さまざまな言葉で実験した結果は、要するに道徳的な(と思われそうな)言葉が雪花状の結晶を作り、逆に不道徳な(と思われそうな)言葉では雪花状にならないというものでした。さらには凍らせる前にクラッシック音楽を聴かせた(これも文字通り「聴かせ」ます)は雪花状結晶を作り、ヘヴィメタルではだめなど、いかにも安手の道徳に合致する結果が提示されています。

いやあ、びっくりですよね。
「水は記憶する」というのですから。


シンクロナイズドスイミングを観ながら、あのプールの水はサンバ調からクラッシックまで聴かされて、さぞかしすごい結晶になるのだろうなと、今年は気が散ってしまったのでした。


そして選手の皆さんの「応援にありがとう」という気持ちだけでなくて、「鬼コーチのばかやろう」とか「やめてやる!」といった気持ちと汗と涙も何もかもとけ込んだ水が、美しい水滴の映像になっていくのを観ていました。


本当にこのひと言で済む話なのだと思いますけれど。

科学的な知識などまったく必要ありません。「水は聞く耳を持たない」ことさえ知っていればわかるはずのことですから、ニセ科学かどうかを判定する難易度は最も低い。

ところで、なぜ「目から鱗」なのかというと、それまで図書館や書店通いをして、棚の隅から隅まで見て回るほどの活字中毒だった私が、こうした類いの本の存在に気がつかなかったことに驚いたのでした。


無意識のうちに避けて通っていたのだと思いますが、何かのきっかけで手に取って感激してしまった可能性もあるわけで、ヒヤリとした目から鱗でした。




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