あらためて産科医療補償制度報告書の「生後5分まで新生児蘇生処置が不要であった事例について」を読みなおしています。
「1. はじめに」にはまず、以下のように書かれています。
出生時に新生児仮死がなく、リスクが低いと判断された新生児であっても、新生児期は胎内環境から胎外環境へ移行する不安定な時期であり、予期せぬ重篤な症状が出現する可能性がある。「産婦人科診療ガイドラインー産科編2014」では、新生児異常は、何となく活気がない、皮膚色が優れない、あるいは無呼吸の観察等で発見される場合が多いとされている。
今ではこの文章を読むだけで、少なくとも生後数時間ぐらいまでは生まれたばかりの赤ちゃんへの無意識のうちに観察している緊張感が甦ってくるような感じです。
「本当にそうだ!」と実感しています。
もちろん、助産師になったばかりの頃も、出生直後の新生児に接するのはそれなりに緊張感があったのだと思います。
でも思い返すと、やはり「無事に分娩介助が終わった」という安堵感のほうが大きくて、ちょっと新生児へのアンテナは鈍かったのではないかと思います。
そのうちに、元気に啼いていた赤ちゃんが30分ぐらいして真っ白になっていたり、インファントウオーマーではなくお母さんに抱っこしてもらっていたら体温が急激に下がっていたり、なんとなく元気がないから血糖を測定してみたら低血糖だったとか、ヒヤリとした体験をします。
「胎内環境から胎外環境へ適応する」というのはこういうことなのかと、教科書に書かれていた意味を本当に理解できて慎重に観察し、ケアできるようになるまでには時間が必要だったと我が身を振り返っています。
ほとんどの施設で、生後2時間までは分娩室にいて母子の異常を見逃さないように観察することが一般的なのはなぜなのか。
それは、やはりその時間までが母体にも、そして新生児にとっても危険なことが突発的に起こるという、先人の経験によるものなのだろうと実感しています。
冒頭の報告書の中では、日本助産師会が出している「助産業務ガイドラインt2014」が引用されています。
ちなみに、「助産業務ガイドライン」といってもこれは助産師会が出したものなので、あくまでも助産所や院内助産のように医師がいない場所での分娩を対象にしたものだと理解しています。
さて、その「助産業務ガイドライン2014」の「9. 早期母子接触(early skin to skin contact)」では以下のように書かれているようです。
早期母子接触による母親の児に対する愛着行動や母子相互関係の確立などに対する効果は、すでに証明されている。生後すぐに母子が引き離されることなく、肌と肌を接触させることは母子にとって自然なことである。しかし、早期母子接触が行われる生後早期は、胎児期から新生児期へと呼吸・循環の適応がなされる不安定な時期でもある。早期母子接触の実施時に児の呼吸状態が悪化し、重篤な後遺症を残す等の事故が報告されている。
「愛着行動や母子相互関係の確立などに対する効果」とはどういうことなのでしょうか?
どうやって「証明する」のでしょうか?
そして「効果が証明されている」らしいのに、「事故が報告されている」ことを並列して書くことができるのはなぜなのでしょうか?
その次の「10. 新生児のビタミンK投与」を読むと、「この予防効果の科学的根拠は高く、ガイドラインに従い、全ての新生児に必ずすべきである」と書かれています。
そしてこんな一文が。
医療従事者がビタミンK製剤の投与を行わないあるいは家族に投与を指導しなかった場合には、その結果発症したと考えられるビタミンK欠乏性出血症について責任追及される可能性がある。
ああ、やっぱりあの助産師の中で広がったホメオパシーの問題を本当に理解していないのだろうなと思います。
効果とはなにか、証明すると言うことはどういうことなのか。
そして「科学的」とはどういうことなのか、あの失敗に学んでいないから早期母子接触も矛盾だらけになるのでしょう。
「カンガルーケアを考える」まとめはこちら。