事実とは何か 13 <お産のファンタジー>

私のブログへの検索ワードに「バースハピネス」という言葉がありました。
「幸せなお産」とは違うのかな、なんであえて英語に言い替えるのだろう、定義は何だろうとちょっと興味をひかれました。
本当にお産の界隈はいろいろな言葉が生まれては消えていきますね。



でも、「バースハピネス」で検索して最も驚きだったのが、今年7月に富山で開催された第52回日本周産期・新生児医学会で「皆で『バースハピネス』を考えよう〜すべての妊産婦のために〜」というワークショップが開かれていたことでした。


座長の挨拶は以下の通り。

 バースハピネス、あまり聞き慣れた言葉ではないと思います。私たち産科医は、リスクある妊娠を管理することを求められています。一方で、ローリスクと呼ばれる妊娠はどのように出産を迎えているのでしょうか。


 日本は世界で一番赤ちゃんが死なない国になりました。それは先人たちがしっかりと分娩を管理した結果であると言えます。しかし一方で管理を考えるあまり、快適性が置き去りにされてきたという指摘もあります。結果として、無事に赤ちゃんを産むことができたとしても、喪失感を感じる女性がいることは残念ながら事実です。


 分娩の様式は多様化してきています。従来通りの管理された出産を安全と考える人もいると思います。しかし管理されない環境で出産したいという願いも尊重されなければならないでしょう。


 安全と快適性、これは基本的に相反するものであるかもしれません。しかし、考え方次第で歩み寄れる可能性もまた存在するのではないでしょうか。


 北島先生は周産期センターの新生児科医師として長年ご活躍してこられました。集中治療を必要とする子どもたちを救ってこられた先生です。そのご経験とともに、幸せな出産とは何か、という大きな話題に切り込んでくださいます。分娩の持つ多様性と、本来あるべき姿とは何か。実は本来あるべき姿、つまりその赤ちゃんに適切な出産方法が、妊婦の求めるものではないことを私たち産科医も考えなければならないのです。これを知り、理解すればそのようか喪失感、あるいは自己否定から救われる女性が増えるのではないかと考えます。


「管理されない環境で出産したい」って、どういうことでしょうか?


「その赤ちゃんに適切な出産方法が、妊婦の求めるものではない」とは、どういうことでしょうか?


産科や新生児科の先生が、医学を「管理する」という言葉で否定的に表現されるのはどういうことだろうと、驚いています。
冒頭でリンクした日本周産期・新生児医学会のプログラム(直接リンクできなかったのですが、「バースハピネス」で検索すると公開されているものをみることができます)を見ると、このワークショップを除いた全ての内容が、その「管理」ための地道な研究ではないかと思います。
お産は終わってみないとどうなるかわからないのですから。



前回の記事のように、できるだけ医療介入を少なく、助産師が主導したお産を目指したクリニックの試みも、結局は分娩から撤退することになったことを見ても、ファンタジーから解決策を考えても、それは現実のニーズにはなりえないのではないでしょうか?


そんなに、日本で出産している方々は幸せだと思っていないのでしょうか?
名もない小さな診療所や総合病院でも、「ここで出産して良かった」と思っていただけていることは事実ではないのでしょうか。


「バースハピネス」ってなんでしょうか?



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