記録のあれこれ 5 <お産の途中で眠くなる>

ドラマや映画で、眠りに落ちそうになる産婦さんの頬をピシャピシャ叩いて、「寝ちゃダメ、赤ちゃんが死んじゃうから。頑張って!」と励ますシーンがどこからともなく記憶に残っています。
助産師になったばかりの頃は、分娩室に移っていきみ始めるぐらいの段階では産婦さんの眠気は、特に厳禁だと思っていました。



分娩第1期の陣痛室にいる間は、体力温存のために眠れる時には休息をとれるように心がけるのですが、分娩第2期になると、分娩が遷延しないようにいろいろな姿勢をとってもらったり、頑張っていきんでもらったりしました。


もちろん、頬を叩いたりなんてことはしませんでしたが、なんとか眠らせないようしてお産を進ませなければ、と思っていたのだと思います。


当時の教科書を読み返しても、分娩経過中の産婦さんの眠気については何も書かれていません。


ある時期から、「お産の過程で、急に眠くなるタイミングがある」ことが見えてきました。


<児が下降し始める直前の眠気>


初産婦さんだと、子宮口が全開する直前に、急に深い眠りになる方が多い印象です。
それまでは「もうダメだ!」「もうヤダ!」「帝王切開でいい!」とすごく苦しそうにしていた産婦さん達が、急に静かになります。



最初の頃は意識がなくなったのかと、こちらが慌てて、「大丈夫?気分が悪いの?」と確認していたのだと思います。
5分とか10分ぐらい、深い眠りの後、今までの陣痛とは違っていきみたい感じが強くなるようです。



経産婦さんだと、子宮口が全開しなくても7〜8cmぐらいでもこういう眠りがしばしばあります。
そしてやはり、その眠りからさめると一気にいきみたい感じへと陣痛が変化するようです。


何人も同じような状況を観察して、それが私の分娩記録ノートに表現され始めたのが、分娩介助経験数がおよそ400例近くになった頃でした。


そのあたりから、目の前の産婦さんの陣痛が突然遠のいて深く眠り始めても、陣痛が弱くなったわけではなくていきみたくなる前の眠りなのだろうという「事実」が見えてきたのでした。



<胎児の眠りと同調している>


いきみたくなる娩出期直前の眠りはなんとなく見えて来たのですが、それでも分娩経過中で急に陣痛が弱まると「なんとかしなければ」と思っていました。
産婦さんに廊下の散歩や階段の上り下りをしてもらったり、入浴してもらったり。


たしかに微弱陣痛で促進剤が必要なこともありますが、お産の経過中の陣痛の強弱にはもう少し別の理由もあることに気づいたのが、分娩進行中はずっと分娩監視装置をつけることが方針の施設で働いたことがきっかけでした。


生活者としての胎児でも書いたのですが、夜中の3時頃から陣痛が遠のいてお産が進まなくなることがよくあります。
分娩監視装置の記録用紙を見ると、胎児もスリーピングパターンが長く続くのです。


一日の中でも胎児が活発な時間と眠っている時間があり、陣痛の強弱とも関係がある可能性があるのだろういうのが、私の中の仮説のようなものです。


赤ちゃんの頭が見え隠れし始める頃でも、急に陣痛が弱くなることはしばしばあるのですが、そんな時は分娩監視装置の胎児心拍のデーターでも赤ちゃんが眠っているパターンのことがあります。


「今、赤ちゃん眠っているみたいだから、お母さんも眠かったら眠ってね。赤ちゃんが起き始めたらまたぐんといきみたくなるかもしれないから」
母児ともに問題がない経過であれば、今は、そういう説明で待つようにしています。


自然経過(内因性のオキシトシン)のお産だけでなく、陣痛促進剤を使ったり硬膜外麻酔の無痛分娩でもその傾向は同じ印象です。



お産の途中で眠くなることがある。
おそらく世界中、それが見えている助産師はたくさんいると思います。


ところがこのひとつの事実でさえ、なかなか「助産学」の中では明らかにされない。
やはり、学問の土台として観察と記録の方法が明確にされてこなかったからではないかと思っています。




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