数字のあれこれ 15 <飛び込みと水深>

少し前に、「都立高校、プール飛び込み原則禁止に、都教委が方針」というニュースがありました。

東京都教育委員会は24日、都立高校の水泳の授業でプールへの飛び込み指導を原則禁じる方針を決めた。都立高校で7月、飛び込んだ男子生徒が首を骨折する重傷を負ったことを受けての措置。2017年度から始める。


都教委の定例会で同日、決めた。都立の高校や中等教育学校などが対象。体育の授業や校内大会では水中からのスタートとし、文化祭でシンクロナイズド・スイミングを披露するなどの場合も飛び込みや回転などは禁止する。一方、水泳部の活動では、顧問の教員や外部指導員らが安全確保を指導する条件で飛び込みを認める。


都立墨田工業高校で7月、水泳授業中に飛び込んだ3年生の男子生徒がプールの底で頭を打ち、首を骨折する重傷を負った。都教委は、当時の指導に問題があったとして、対応を検討していた。
2016年11月24日 朝日新聞

高校に設置してあるプールの水深はどれくらいなのだろうと、事故を知った時に気になったのですが、事故のあったプールは水深1.1mと書かれていて驚きました。
ですから当然の措置だと私は思ったのですが、このニュースのあと「何でも禁止にするか」という批判もあったことを知り、そのことにも驚きました。


いくつかの公共プールで泳いでいますが、平均して浅いところは1.1m〜1.3mで、中央の深いところでも1.3〜1.5mぐらいです。
小学校の温水プールを開放しているところになると、さらに浅くて1m未満の部分もあります。


泳ぎ始めた頃は1.1mでもそこそこの水深に感じましたが、20年以上泳ぎ続けていると水深1.3mでも浅く感じます。
私は飛び込みはしませんが、水中からのスタートでも水の抵抗が少ないのは深いところだと感じるので、けのびでもだんだんとプールの底近くまで達するようになりました。


ですから、クロールでの水中からのスタートでも、1.1mのプールでは少し怖く感じます。
背泳ぎになると、壁からけのびで潜ると、1.1mのプールでは背中がプールの底に当たりそうになってヒヤリとします。


最低でも水深1.3mは欲しいところだと、私の感覚では感じていました。
まして飛び込み台からのスタートなら、水深1.8〜2mぐらいは必要なのではないでしょうか。



<「プール水深とスタート台の高さに関するガイドライン」>



ただそれは私個人の感覚ですから、どこかに数字にされたものはないか検索したところ、日本水泳連盟が平成17年7月に出した「プール水深とスタート台の高さに関するガイドライン」が公開されていました。


全国の既存プールには水深1.0〜1.2m程度の施設がかなり多いという状況の中で、競技会なりトレーニングを実施していかざるを得ないという現実的問題点を認識した上で、このガイドラインにより、重篤な飛び込み事故の防止を図ると共に、より安全でより合理的な水泳の普及・振興に結びつけようというものである。


2001年にはすでに以下のような規則ができていたようです。

1. 現行のプール公認規則(2001年4月改正)では、スタート端壁前6.0mまでの水深が1.35m未満のプールではスタート台の設置を禁じている。しかし、これとても絶対的な安全な水深というわけではない。如何なる飛び込み姿勢に対しても安全な水深となると、各方面の研究成果から判断して、現場の常識をはずれた深いプール(水深3m以上)とならざるを得ない

たしかに、十数年前頃から、公共プールの飛び込み台が撤去されて、ほとんどのプールでは飛び込み台を見なくなりました。この規則が浸透したのでしょうか。


プールの端でも水深1.35mというと、成人でも顔を水面から出すためにすこし背伸びが必要になるぐらいです。
そのレベルの公共プールはおそらく競技会ができる50mプールで、都内ならわずか数カ所ではないかと思われます。


ところがプールを使う人の目的が多様化してきたので、水深の深いプールばかりでは対応できない時代にもなりました。

2. また一方、水深1.0〜1.2m程度のものでなければ、競技会以外の目的が多い一般のプールでは使い物にならないという現実もある。

3. また競技としては、ある程度の高さから飛び込みスタートするということなくしては、記録上の魅力は望めないという事情もある。

プールのジレンマが書かれています。



7. このガイドラインは、全国の既存の水泳プールの現状と、競技会・トレーニングの実施状況に照らし合わせ、頸椎・頸髄損傷、四肢麻痺等の重篤な飛び込み事故の防止を図るために検討・策定された。しかし、これは「絶対的な安全基準」という性格ではなく、現実的な妥協点とも言うべきものである。したがって、本ガイドライン通りの設定で実施した飛び込みスタートであっても、陸上、水中での姿勢・動作等の要因が複合すれば、プール底に頭部を強打して、飛び込み事故が起こるのも事実である。

このガイドラインを読めば、飛び込みはやはり適切な水深と適切な指導者がそろわなければ原則禁止で良いと思うのですが、反発がでてくることは気持ちの問題だから難しいですね。




「数字のあれこれ」まとめはこちら